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チェスポック|入れるものは3つ。フットワークよく暮らすためのミニマルボディバッグ|CHES POCK

【CHESPOCKの作り方⑤】なぜクラリーノなのか?

こんにちは!クラリーノの企画、および製品の製造を担当しているクラレトレーディング㈱の奥井です。
「BPPの作り方」第5回は、いったんデザインを担当した魚住さんからバトンを受け取って、素材開発の道のりについて語りたいと思います。
 
 
そもそも、このCHESPOCKというやつ、最初に聞いた時はピンとこなかったんです(笑)。 あの巨大な登山用のバックパックを担いで外国とかを渡り歩く旅行者、彼らのためのポーチなのか?
バックパックから荷物を分離したいのなら、従来からあるボディバッグやウエストポーチではダメなのか?
単体で使うなら、サコッシュでもよくないか? ところが、魚住さんの言うバックパッカーというのは、ツーリストのことではなく(それを含めててもいいんですけど)、日常生活のお供にリュックやバックパックを選んでいるすべての人だという定義がわかりました。
また、胸の前の狭いスペースに、スマホや財布といった最小限の小物が気持ちよく収まる極小サイズのポーチが、ありそうでない…という説明を聞いているうちに、言われてみれば確かにそうだと思い至りました。
そこで、ユリシーズがBPPで実現したい世界観を体現できるクラリーノを提供しよう!ということになったわけですが、コレが一筋縄ではいかなかったんです。
 
以下、魚住さんとの対談からその軌跡を追っていきたいと思います。

欲しいのは、レザーの代替品ではない

魚住: このラウンドアウト(=クラレとデザイナーのコラボ)に加えてもらったのは、今までの(天然皮革という)狭い枠を超えて新しい価値を作れるところが面白いなと。
僕たちが今まで好んで使ってきた素材は、ベジタブルタンニンなめしレザーといって、風合いに関しては言うことないんですが、水や汚れに極端に弱い。
なので、それで作られたプロダクトも、天候を選ばず通年で使ってもらえるものにはなりえませんでした。 だから最初、奥井さんには「クラリーノでベジタンのような表情があるものがないですか?」という方向で相談しました。
 
奥井: だったら「イエローストーン(無数にあるクラリーノのバリエーションの一つ)」だね、となって。アウトドアに使われるような、革っぽい表情のあるものなんですけど。 (注:クラリーノは、クラレ自身が「人工皮革」と表現しているように、天然のレザーの組成を研究して再現した素材。なので、革とよく似ているのは当然なのでした)
 
魚住: スワッチ(色見本帳)を見ると、一旦は「確かにそれ一択だね」となったんですけど。 何度も試作を繰り返しながらよくよく完成図を想像した時に、だんだん、なんか違うなと思い始めました。
イエローストーンは、リアルレザーに寄せようとして、色ムラなど演出が入っているような感じなんです。でも、そんなに風合いを重視するなら革で作ればいいわけで(笑)。 クラリーノの良さって、革の持っているしなやかさや温かみ、柔らかさなどを再現しつつ、実用品としての耐候性の高さや防水性を備えているところです。
なので、少し視点を変え、「性質として革の良さを備えつつ、見た目は革におもねらない、落ち着いた雰囲気のクラリーノ」がないかな、と。
 
奥井: それなら「ヨセミテ」っていう、感触がイエローストーンに近い雰囲気のものがありますよ?と提案しました。
 
魚住: ああ!これくらいの感じがいいなぁって!

【やっぱり「ないなら作る」】

奥井: で、いよいよこれでやろうと方向性が決まったんですけど。色出しの直前になって、『ヨセミテだと狙った色が出せないよ』と工場から言われてしまい…壁にぶつかりました。 なんとかイメージに近づくようにいろいろと模索しましたが、既存のものだと今ひとつ決め手に欠けて。これはもう、特注で作るしかないね、と。
 
魚住: そうそう。そんなやりとりの中、色はどうしようという話で、ブラックは早い時点で決まってたんだけど、もう一色、飽きが来なくて服装も選ばないカラーとしてアーバンミリタリーな雰囲気が良いねってなって。 ところが、これがなかなか良い色にたどり着かない。
 
奥井: 何度もトライしましたよね。何回やったんだろう?(笑)計9回くらいは色出ししました。ビーカー(実験室で行うテスト)まで含めると、もっとですね。
 
魚住: 奥井さんがどんどん先回りして、僕たちの求めているものを作ってくる。もういい加減これでいいよねという雰囲気になっても、奥井さんがさらに改良してどんどん送ってきて(笑)。
こう言っちゃうとアレですけど、クラレさんって大企業じゃないですか(笑)。なのに、ほんとうに色出しひとつでこれほど手厚く対応してもらえるとは思ってなかったので。ありがたさしかありませんでした。
 
奥井: で、何とか色については解決したんですが、次に厚みと張り感の話ですよね。

誇張のないモノづくりがしたい

魚住: 僕にとっては「厚み」と「張り感」のバランスが大事で。厚すぎてゴワゴワするのは嫌だけど、ペラっと薄すぎるのも避けたい。
なぜそこにこだわったかというと、通販でいつもガッカリするから(笑)。
アパレル通販の世界では、バッグの商品画像を撮影する時、セオリーとして中にあんこを入れて撮ります。なので、そのバッグが一番キレイに見える形になっています。
だけど、実際に商品が手元に届く時にはあんこが入ってないので、箱を開けたらくしゃくしゃに潰れた紙風船みたいになってて、「思ってたのと違う!」ってなる(笑)。 こういうガッカリ感を、お客さんにも感じて欲しくないんです。
物がパンパンに入っていない限り、そのバッグが一番かっこいい状態にはならないのって、変だなと。中身が入っていようがいまいが、いつもハンサム。そんな入れ物にしたかったんです。
 
奥井: 今まで張り感を求められたことはあまりなくて(笑)最初とまどったんだけど、魚住さんは論理的な要求をしてくるので、一緒にやってて面白かったですよ。
 
魚住: 天然の革、特にベジタブルタンニンなめしのものって、ロット毎にかなり個体差があるので、なかなか思い通りのものを量産できない。
だけどクラリーノは、いくつもの細かい意図が込められた素材を、まったく同じ仕様で量産できる。これが得難い強みです。
 
奥井: ロット毎に違うのは、むしろ革の良いところですけどね。とはいえ、革なら味わいと言ってもらえるところでも、クラリーノだとバラつきがあったら怒られちゃう(笑)。
 
 
… 素材談義はまだまだ続いたのですが、それはまた別の機会に。
こうして、およそ1年かかって、ようやく理想的な「BPPのためのクラリーノ」が完成しました。
次回はバトンを魚住さんにお返しして、いよいよ、そのクラリーノを使って完成した最終サンプルのお披露目です!
 
(つづく)
2021/01/21 09:19