Photo Life Laboratory ULYSSESの魚住です。
「チェスポック」の名前の由来
胸(チェスト)の前に設ける、上着でもズボンでもない第三のポケットという意味で、チェストとポケットをくっつけて、チェスポック(CHESPOCK)。単純ですね(笑)。
今日は、適切なバッグのサイズについて、少し科学してみたいと思います。
私たちは矛盾している
皆さんはバッグを選ぶ時、何を基準にするでしょうか。見た目が好みかどうかはとても大切ですし、使うシーンとのマッチングも考えるかもしれません。
ですが、「入れたいものが全部収まるか」という部分を無視する人は、ほとんどいないと思います。何がどれだけ入るのかは、入れ物選びでとても重要なポイントです。
ところが、楽天やアマゾンなど大手通販サイトで、いろいろなバッグに寄せられたレビューをつぶさに読んでみると、面白いことが分かってきます。
小型のバッグには「あと少し大きければ、○○が入ったのに」という、+αの物が入らない不満が挙げられ、ある程度大きなバッグには「運搬力に不満はないけれど、重くて肩が痛くなる。もっとショルダーパッドを改善して欲しい」というような、肉体的なつらさを挙げる人が出てきます。
ここから分かるのは、私たちは入れ物があると、ついつい、入れられるだけ入れてしまう生き物だということ。さらに調べると、同じようなことは海外のユーザーもコメントしているので、これはもう、私たちの本能のようなものだと言えます。
一方で、荷物の総重量がある一定のラインを超えてくると、体のほうが耐えられなくなることについては、使い始めた後で後悔することはあっても、少なくともバッグ選びの最初の時点では、あまり頓着していません。
ショルダーパッドの改善を要求する人は、そもそも、背負っているものの重さが自分に耐えられる限界を超えていることに気づいていない可能性があります。
「いやいや、重さのことはちゃんと念頭にあるし、自分の限界だって分かってる」 実は僕自身、そう思ってました。実際、物をたくさん詰め込んでも、ちゃんと持てるのです。
ところが、そこに欠けている視点がありました。「時間」です。
何がいくつ入るかではなく、どのくらいの時間「快適に」背負っていられるか
バッグの重量と疲労の関係は、短距離走と長距離走の違いによく似ています。
ほんの50mでいいなら、全力で走れる。けれど、立ち止まらずに10km走ろうと思うなら、スローなペースで息が上がらないように考えないと、最後までもたない。 同じように、バッグについても、わずか数分~十数分だけ運べればいいのか、街歩きを楽しむために数時間背負っていなければならないのかで、背負うモノの重量を考えるべきです。今までより、もう少しだけシビアに。
僕がこの考えに至ったのには、理由があります。 ユリシーズが最初にバッグを作ったのは、7年前のこと。「背中に背負った状態から一瞬で撮影に移れるカメラバッグが欲しい」と思い、メッセンジャータイプの「チクリッシモ」というバッグを考案しました。
ユリシーズが7年前に作った「チクリッシモ」
カメラを持ち出すことを休日限定の行為にするのではなく、日常的に持ち歩いてシャッターチャンスに備えたいという思いが強かったので、大前提として、毎日の生活に必要な日用品は全部入るバッグにしました。
具体的には、ノートパソコン、アダプター、財布、スマホ、名刺入れ、キーケース、モバイルバッテリー、カメラ+標準ズーム、望遠ズームなどなど。
頑張った甲斐あって、ワンストップで全てがまかなえ、そのうえカメラも一瞬で取り出せる理想的なバッグになったのですが…大きな誤算がありました。 肩が、1時間で耐えられなくなってしまうのです。
なぜ「誤算」と表現したかというと、背負いはじめの時点では、1時間後にやってくる耐え難い苦痛が予想できないくらい、快適だったから。
背負った瞬間にそれなりの重量は感じましたが、だからといって、あれほどまでに切実な痛みが襲ってくるとは思えませんでした。
結果、当初の予定通りのものを全部詰め込むと、すぐ疲労して、撮影に集中できる時間が短くなってしまうので、それからは仕方なく、中身を半分に減らして使うようになりました。 この時の経験から、バッグの設計において一つの基準が生まれます。それは、ただ運べるかどうかではなく、「疲労や痛みを感じずにいられる時間がどのくらいか」という視点です。
バッグで物を運ぶことは、普段の生活において、それ自体が目的ではありません。
何かをする時に、持っていないと困るorその方が便利だから、持ち運んでいます。本来やりたいことに集中できるためには、運搬が苦痛にならないようにする必要があります。
今回作ったチェスポックが、容積の小ささやストラップの幅、体への密着度にしつこいくらいこだわったのは、「まる1日身につけていても疲労感を感じないこと」をとても重視したからです。
入れられるものを「財布・スマホ・キーケース」という3つに絞った理由は、ここにもあったのでした。
(つづく)