Rikka Zine主宰・橋本輝幸です。
本日からはいよいよ、本誌Rikka Zine Vol.1に収録する作品と、作家や翻訳家の紹介をしていきます。
本誌Vol.1のテーマはShipping――章ごとに異なる形で、この言葉にまつわるSF&ファンタジーを皆さんにお届けします。
まずは第1章:Delivery編から。コロナ禍以降、日本でも物品や食事のデリバリーが一層盛んになりました。
都市部での食事の配送は特に、ギグワーカーと呼ばれる、単発で仕事を請ける個人事業主の働きに頼る部分も大きくなりました。
運送業が個人が日常生活を営む上で欠かせなくなった一方で、現場には多大な負担が押し寄せています。
また、そもそもタイムリーな配送が可能なのは都市部のみ。少子高齢化が進む社会では、そもそも配送インフラがちゃんと維持されていくのか、きわめて不安が残ります。
第1章には運輸や移動がテーマとなるSFを集めました。
作品の舞台の多くは、ゆるやかな衰退を経ていたり、理不尽な管理社会だったりします。輝かしくも希望に満ちあふれてもいない、しかし決定的な破滅もしていない、くすんだ、いまいちな未来。そんな中でしたたかに、あるいは流されながら生きる登場人物たちの生きざまをぜひ見届けて下さい。
第1章 収録作一覧
本日は、冒頭の2作品を紹介します。
千葉集「とりのこされて」(約6350字)
兄がまだ元気だったときで、十四かそれくらいだったと思う。あのころに遊び相手といえばお互いしかいなかった。それで、飛脚を捕まえにいくのにも付き合うはめになった。
捕まえる、といってもおおきな鳥だ。力もつよい。こどもの手にはあまる。
千葉集さんは、2019年に第10回創元SF短編賞で宮内悠介賞を受賞した小説家です。
本作は、飛脚と呼ばれる飛べない鳥が運輸に使われている日本が舞台の、一種の改変歴史SFです。語り手による回想形式で語られます。過ぎ去りし時代と世界に向けられたまなざしが、とても叙情的な味わいをもたらしています。本誌のために書き下ろしていただいた作品です。
英訳を担当する翻訳家はマット・トライヴォーさん。飛浩隆『グラン・ヴァカンス 廃園の天使』や円城塔『リスを実装する』ほか、数々の実績を持つベテラン文芸翻訳家です。
レナン・ベルナルド「時間旅行者の宅配便」(約1820字)
お客さんはほとんどチップをくれない。
私みたいな時またぎの配達員は、配達のためにワームホールを行きつ戻りつしては常に自分の身を危険にさらしている。なのに私のプロフィール欄も客の心をてんで動かさないようだ――ルビー・ソウザ、三児の母、配達は副業で生物の教師です(うちのダックスフント、ドーバと一緒に写っている顔写真つき)
レナン・ベルナルドさんは、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ出身のSF・ファンタジー作家です。英語とポルトガル語の2言語で近年旺盛に短編の発表を行い、Apex MagazineやDaily Science Fictionといったウェブジンから、テーマアンソロジーまであちこちでお名前を見かけます。本業はコンピュータ関係のエンジニアだとか。本作で初めて日本語に翻訳されます!
作風もかなり幅広いですが、気候変動・環境問題を扱った作品に定評があります。短編”A Norma Aqui de Cima”はブラジル本国でOdisseia賞とArgos賞という2つのSF賞にノミネートされました。
日本で翻訳されている作家の中では、アリエット・ド・ボダール、オクテイヴィア・バトラー、ジェイムズ・S・A・コーリイ、アーシュラ・K・ル=グウィン、ケン・リュウから特に大きな影響を受けているそうです。
さて、そんなレナン・ベルナルドさんの掌編「時間旅行者の宅配便」の主人公は、子供の病気のため家計が苦しく、時を超える乗り物(ポッド)に乗りこんでは危険なギグ・ワーキングに手を染める女性です。皮肉の利いたユーモアに彩られた時間SFアドベンチャーをお楽しみください。
初出はSimultaneous Times EP.38 / The Simultaneous Times Vol. 2.5 (2021)です。英語からの翻訳は私、橋本輝幸が担当しました。
(引き続き内容紹介をお楽しみに!)