Rikka Zine主宰・橋本輝幸です。
昨日からRikka Zine Vol.1に収録する作品と、作家や翻訳家の紹介を始めました。
さて本日は第1章:Delivery編から木海さんの「保護区」を紹介します。
1 千葉集「とりのこされて」
2 レナン・ベルナルド「時間旅行者の宅配便」
3 木海「保護区」 ←今日はこちら!
4 府屋綾「依然貨物」
5 伊東黒雲「(折々の記・最終回)また会うための方法」
木海「保護区」約9800字)
最後の人間の意識がサーバー上にアップロードされてからは、事実上、第一世代の人類が仮想空間にアップロードされたためしはない。大いなる冬が訪れた地上では、サーバーの外の人類の肉体は塵芥と化し、最後の自然人は歴史となった。
木海さんは中国の新鋭SF作家です。2021年に「保護区」が中国の寒武賞(SF短編コンテスト)で最終候補20作に残り、ウェブジン『小科幻』誌に掲載されました。
実はこのコンテスト、複数のテーマから選んで創作する仕組み。木海さんが選んだテーマはずばり「快递(速達、宅配便)」でした。
主人公の劉乙(リウ・イー)は、人類がみなネットワーク上にアップロードされた世界のバーチャル南京で、配達員として日々を過ごしています。ところが彼の行動には妙なところがあり……。
木海さんが好きな日本のSF作家は小川一水、上田早夕里、小林泰三、柞刈湯葉。好きな中華SF作家は昼温、顧適、七月、鲁般だそうです。最近は、安野貴博『サーキット・スイッチャー』(早川書房)や久永実木彦『七十四秒の旋律と孤独』(東京創元社)を楽しまれたとか。
また熱心なミステリ愛好家でもあり、葉真中顕、下村敦史、染井為人、阿津川辰海、早坂吝などの作家名がポンポン飛び出してきたのには私も驚きました。
ジャンル小説への愛が深い著者の作品らしく、「保護区」はSF的設定と意外な動機が明らかになっていくサスペンス小説です。
どういう話に転がっていくのか、冒頭からはなかなか予想がつかないのではないでしょうか?
なお本作では、現在の南京市街に実在するランドマークや実在のチェーン店の登場も見どころです。こういうのも海外小説を読む歓びのひとつですよね。
このたび謝宛さんに、そうした要素もふんだんに盛りこんだ、本作のイメージイラストを描き下ろしていただきました。これを見て、本誌がお手元に届くまで想像を膨らませていただければ幸いです!
美麗イラストのフルバージョンをご覧になりたい方は、ぜひ本誌でご確認ください。
なお中日翻訳は私、橋本輝幸が、中英翻訳はシンガポール出身の小説家・アーティスト・翻訳家のジュディス・フアンさんが担当しています。
(つづく)