岩谷宏の新刊について
私は1950年生まれで1970年代がちょうど20代であった。
私は渋谷陽一、松村雄策、岩谷宏と出会いロッキング・オンを創っていた。
岩谷宏は、私より10歳年長で、渋谷も松村も私も、それぞれ違う形であるが岩谷宏からは大きく強い影響を受けた。もろ影響を受けたのは私だと思う。
私には、70年代にもうひとり別の10歳年長者がいて、それはマンガ家の真崎守である。岩谷宏は、とにかく否定の権化で、何を言っても否定される迫力と鋭さがあった。真崎守はまったく逆に肯定の権化で、私のことを全て受け入れてくれて喜んでくれた。この否定の権化と肯定の権化の磁力の間で揺れつづけていたのが20代の私である。
そういう環境で20代を過ごせたことは、二人に大変、感謝している。30代になって、二人との関係は70年代ほどではなくなった。70年代は特別な時代だったのだろう。
それから半世紀たって。真崎守は認知症になり、彼の作品を整理していている。
岩谷宏は元気だが生活が安定しているわけではない。二人のことを、紙の本にまとめていきたいと思った。それが20代の時に二人に多くを学んだ者として責務である。
私はデジタルメディア研究所を30年ほどやってきて、デジタルの世界の最前線を生きてきたつもりだが、AI全盛の時代にもう一度、アナログな「紙」の役割を意識するようになった。
早く広く伝えるにはデジタルが有効だが、深く、そして、世代や時間を超えて個人が生きてきた証を残すのは、本というタイムカプセルが有効だと思う。
現在、戦後に拡大して書店の流通は崩壊しつつある。それは大量生産・大量消費の近代・戦後社会の方法論の崩壊なのだと思う。そのシステムは崩壊しても、雑誌・書籍の出版文化の意味は人類にとって変わっていないと思う。
岩谷さんの新刊は、通常の書籍コードで取次経由で配本するが、それが本命ではない。それでビジネスを成立させるためには、大量の書籍を印刷して、宣伝して、配送して、多くの返本破棄を覚悟しなければならない。
既存の本屋は、取次から流されてきた売れ筋の本を、並べて販売する。かつては意識のある店長さんや定員がいて、自分が売りたい本を丁寧に選書していたが、80年代バブル以後、書店の大型化と合理化で、POSデータによる管理システムが支配してしまつた。心ある書店店員さんは、退職して小さな書店を作っている。今は、「売りたい本を売ってる書店」は、ブックカフェやシェア書店の動きになっている。
そして出版社も、80年代バブル以後、「売れる本」しか企画会議で通らなくなった。70年代までは、大出版社の編集者も、巷の小出版社の編集者も、「自分たちの出したい本」を会社を騙してでもだそうという心意気があった。しかし、今は、SNSのフォロアー数が企画会議の大事な要素になるという体たらくである。人間がいなくなって、システムが支配する社会になってしまったのではないか。
私は『イコール』という雑誌を創刊したが、この雑誌の目指すところは、もういちど70年代に意識を戻して、「書きたい奴が書いて」「出したい奴が出して」「売りたい奴が売る」という時代のムーブメントを生み出したい。
著者と読者の関係でいえば、本当は、本を読んで大事だと思った人が、その本を仕入れて、自分で販売するのが理想だと思っている。クラウドファンディングは、そのための仕掛けである。今は本を出すのも個人レベルで出来る時代である。そして、本を販売するのも個人が出来る時代である。私が言う「参加型社会」というのは、こういう構造を目指している。
ちなみに『イコール』はこういう方法で提案している。
『イコール』創刊1号。10冊卸売販売。5ガケで卸している。
https://metakit.booth.pm/items/5760759
さて、岩谷宏の新刊は、クラファンがあと9日間で半分しか成立していない。
土壇場になれば、橘川が不足分を申し込むしかない。
岩谷宏は1970年代に最も輝いていた人だ思う。実際、あの時代に岩谷さんに影響を受けた人を、私はたくさん知っている。しかし、70年代を体験していない人は、当時の原稿を読んでもピンとこない人が多かった。それは仕方ない。
今回の企画のテーマは、ひとつは、岩谷宏の言葉を通して「70年代」を知らない人に時代意識を体感してもらうこと。そしてもうひとつは、岩谷宏という、本来、時代の流れとは無関係に、凄い思索家の思考を、70年代抜きにして世の中に提出したいということだ。こちらの作業については、かなり大変な編集作業が必要だと思うのでだが、やってみる。編集の協力者を求める。
ということで、このプロジェクトに関心のある人は、願わくば1冊とはいわず何冊でも購入していただき、本の拡散にも協力いただきたい。
▼クラファンサイトは、こちらです。
永遠の今(仮題)岩谷宏の言葉を 出版したい
https://greenfunding.jp/miraifes/projects/8405/