和田春樹さんからドイツの停戦呼びかけの宣言文の訳が届きました。ぜひ読んでみてください。そして、この停戦の呼びかけを、G7サミットに意見広告を出すクラウドファンディングへのご協力を、お近くの方にお伝えし、ご参加をお誘いください。
(これは和田春樹さんの『ウクライナ戦争ーー停戦への道』原稿の一部です。)
こののち2023年1月にはいって、ウクライナ軍事支援の一次元引き揚げが進行した。
1月11日ポーランドが保有するレオパルト2のウクライナ提供を表明した。しかし、ドイツの了解がなければ、この提供は実現できない。ドイツの態度は保留であった。ドイツの国内ではショルツのドイツ社会民主党と連立をくむ緑の党が重火器や戦車の供与を主張していた。他方でショルツ首相あてに戦争の拡大反対、武器提供反対を主張する公開書簡に50万人が署名している。世論調査でも賛成が46%で、反対が43%と拮抗している。1月20日、ドイツで開かれたウクライナ軍事支援の国際会議では、ドイツのショルツ首相は自国製レオパルドの提供についてなお明言しなかった。それでイギリスだけが自国の戦車チャレンジャー14両を提供すると発表しただけであった。
その後ショルツはついに折れて、米国も戦車供与するなら、ドイツもすると決断した。それを受けて、米国もM1エイブラムズ戦車の提供に踏み切った。そこでショルツは1月25日にレオパルト2戦車の提供を発表した。
これで戦車300両供与への決定的な前進がなされたのである。もちろん、これらの新鋭戦車を操縦するには兵士の訓練が必要になる。まずそれが行われている。戦車が到着するのはすぐにではない。それにしても、将来のウクライナ軍の大攻勢を前に、ウクライナ全戦線は緊張した停滞の中にある。ただ一か所、バフムトで激しい攻防戦が集中的に戦われている。
この政策決定に対してドイツの市民は立ち上がった。2月10日、ドイツ議会の最左派左翼党(Die Linke)のザーラ・ヴァーゲンクネヒトとジャーナリストのアリス・シュヴァルツァーが起草して、ドイツの知識人、芸術家28人が署名した「ショルツ宰相への公開書簡」が雑誌『エマ』に発表され、change.orgで署名集めがはじまった。
「今日はウクライナでの戦争がはじまって352日目です。これまで20万人以上の兵士と5万人の市民が殺されました。女性は犯され、子供たちは怯え、全国民がトラウマに苦しんでいます。戦闘がこのように続くなら、ウクライナは遠からず人のいない、破壊された国になってしまいます。ヨーロッパ中の多くの人々が戦争の拡大を恐れています。彼らは自分たちの将来と自分たちの子供の将来を恐れています。
ロシアに侵略されたウクライナの国民はわれわれの連帯を必要としています。しかし、いまや連帯とは何でしょうか。ウクライナの戦場でどれだけ戦いつづけ、死につづけなければならないのでしょうか。この戦争のゴールは、いまは何でしょうか。一年後にはどうなるでしょうか。ドイツの外相は最近われわれはロシアと戦争をしていると語りました。まじめな話でしょうか。
ゼレンスキー大統領は彼のゴールをかくしていません。約束された戦車の次には、彼はジェット戦闘機、長距離ミサイルと軍艦を要求しています。軍艦に乗ってロシアを打ち負かすつもりでしょうか。ドイツの首相はいまなおジェット戦闘機や地上軍をおくりたくないと断言しています。しかし、最近数カ月のうちに何本のレッド・ラインを越えたのでしょうか。
プーチンはクリミアを攻撃されれば、最大限の反撃に出ると恐れられていますが、当然です。そうなれば、われわれは滑りやすい斜面を容赦なく世界戦争と核戦争に向かってころげおちていくのでしょうか。こんなふうに始まった最初の戦争ではありませんが、おそらく最後の戦争になるでしょう。
ウクライナは、西欧に支持されれば、個々の戦闘に勝利することはあるでしょう。しかし、世界最大の核大国と戦って勝利することはありません。これは、米国の軍のトップミリー将軍が言っていることです。彼はどちらの側も軍事的に勝利できず、戦争は交渉のテーブルに座って初めて終わらせることができるという行き詰まりについて語りました。ではどうしてそれがいまでないのですか。いますぐでないのですか。
交渉は降伏ではありません。交渉は双方が妥協することを意味します。さらに数十万人、それ以上の死者をださないというゴールをめざして。それがわれわれも考えていることです。ドイツの国民の半分が考えていることです。われわれの言うことに耳を傾ける時ですよ。
われわれドイツの市民は米国とロシア、あるいはヨーロッパの隣国に直接影響をおよぼすことはできません。しかし、われわれはわれわれの国の政府と首相に彼の誓い、「ドイツ国民から害を防ぐ」を考慮に入れ、忘れないようにさせることはできますし、しなければならないと思います。
われわれは首相に要求します。武器提供のエスカレーションをとめることを。いまこそ首相は、ドイツのレベルでもヨーロッパのレベルでも、停戦と平和交渉のための強力な同盟を先導しなければなりません。いまこそです。一日おくれれば、1000人の命が失われ、第三次世界戦争にそれだけ近づくからです。」
署名を集めるために2月25日ベルリンのブランデンブルク門の前で「平和をもとめる蜂起」という集会がおこなわれ、警察発表では1万3000人,主催者発表では5万人が集まった。集会では米国の経済学者ジェフリー・サックスがヴィデオ参加し、連帯のメッセージを伝えた。署名者は2か月で77万人に達した。
この平和宣言運動はドイツの内外で大きな波紋をよびおこした。
(引用以上)