※ 本原稿は翻訳作業中のもので、完成版とは異なる場合がございます
【ここまでのあらすじ】
母のレディ・エレノアを亡くしたエラは、父の命で寄宿学校に送られることになった。その当日の朝、憂うつな気分を動物園で紛らせているところに現れたのは……。
【試し読み】
わたしのお気に入りは、言葉をしゃべる鳥と異国の動物たちだった。沼で飼われている大蛇ヒュドラと竜の赤ん坊以外は、ユニコーンも、半人半馬のセントールの群れも、グリフィンの一家も、異国の動物たちは、城の堀の水をひいてきて造った緑の島で暮らしていた。
竜は鉄の檻で飼われていた。この小さく獰猛な動物は美しかった。炎を噴いているときがいちばん幸せそうで、ルビー色の目が邪悪な光を放った。
わたしは檻の横の売店で小さな黄色いチーズを買って、その炎であぶった。これにはこつがいる。近づけないとチーズがうまくあぶれないし、近づけすぎると竜にエサをプレゼントすることになってしまう。
竜が大きくなったら、ジェロルド王はどうなさるおつもりなのだろう、とわたしは思った。そのころは、わたしもここへもどってきて、竜の運命を知ることができるだろうか?
竜のうしろを見やると、堀のそばにセントールが一頭いて、こちらをじっと見つめていた。セントールもチーズを食べるのかしら? わたしはどうかセントールが逃げませんように、と念じながら、そっと近寄っていった。
「どうぞ」声がした。
ふりむくと、シャーモント王子がりんごを差しだしていた。
「ありがとう」
わたしは腕を前に差しだして、そろそろと堀のほうに近づいていった。セントールは鼻の穴を広げ、トコトコと寄ってきた。わたしはりんごをほうりなげた。向こうのほうからセントールがもう二頭走ってきたが、わたしのセントールがりんごを受け止め、ガリガリと大きな音をたてて食べはじめた。
「いつも、思ってしまうんです、セントールがお礼を言うか、『何じろじろ見てるんだ?』って言いだすんじゃないかって」
「セントールは人間の顔はしていても知能が低くて、言葉をしゃべることができないんだ。目を見てごらん。うつろだろう?」シャーモント王子は、ほらというように指をさした。
わたしもそれくらい知ってるけど、まあ、臣下の者たちにものごとを説明するのが王子の役目ってことなんだろう。
「言葉を話せたとしても、話すことを思いつかないってことですね」
シャーはおどろいて、一瞬、黙った。それから笑いだした。「なるほどね! きみっておもしろいよ。レディ・エレノアそっくりだ」シャーははっとした。「ごめん。思い出させるつもりじゃなかったんだ」
「どっちにしろ、しょっちゅう思い出しているから」わたしは言った。ほとんど一日中。
わたしたちは堀にそって歩きはじめた。
「きみも食べる?」シャーがもうひとつりんごを差しだした。
わたしはもう一度、シャーを笑わせたかった。そこで右の足で地面をけって、たてがみをはらいのけるように頭をふった。それからこれ以上はむりっていうくらい目を大きく見ひらいて、いかにも頭が悪そうにシャーを見つめると、りんごを取った。
やっぱりシャーは笑った。それから、きっぱりと言った。「きみのこと、好きだ。すっかりまいっちゃったよ」
シャーは、ケープのポケットから自分用に三つ目のりんごを取りだした。
わたしもシャーが好きだった。