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アン・ハサウェイ主演映画の原作『Ella Enchanted(魔法にかけられたエラ 仮)』を翻訳家・三辺律子による新訳で出版したい

金原瑞人さん(英米文学翻訳家)による推薦文: 性格のいい作家に、ろくな物語は書けない

性格のいい作家に、ろくな物語は書けない。意地の悪い作家ほど、おもしろいものを書いて、読者を喜ばせてくれる。

 

どこまで主人公をいじめられるか、つまりは、そこなのだ。主人公をどんどん追いつめて、あるいは、いきなり苦境に陥れて、はらはらさせてくれなくては、読者は楽しくない。その点、このElla Enchantedは十分、いや、十二分に作者の意地の悪さを証明している。

 

なにしろ、主人公のエレノアは誕生日に妖精から「どんな命令にも必ず従う」という『従順さ』をプレゼントにもらってしまうのだ。プレゼントというより呪いといってほうがいい。そのうえ、すぐに、それを意地悪な女の子に知られて、好きなように利用されてしまう。その妹というのがまた、姉とちがって頭が悪いからその呪いには気づかないものの、そのぶん、貪欲ときている。そしてふたりの母親といったら……なんか、そう、まるで「シンデレラ」なのだ。

 

そして後半、エレノアは持ち前の冒険心と賢さとやさしさのおかげで王子といい関係になるものの、その呪いのせいで、自分を犠牲に……してしまうのか!?

 

おい、作者、そりゃないだろう! といいたくなってしまう。

 

ところが、最後の最後で、それをきれいにひっくり返してみせるところが、作者の技量。ユニークな設定、緻密な構成、たくみな語りが、ここで大きく物をいう。この作品のエンディングで、心からほっとして、大きくうなずいた人もきっと多いはずだ。

 

「わたしって、意地悪じゃないの、ほんとは、とってもやさしいのよ」とささやく作者の姿が目に浮かぶようだ。しかし、だまされてはいけない、本当にやさしい人に、こんな、はらはらどきどきする本は書けない。

 

それにしても、ノーム、エルフ、オグル、巨人なんかが次々に出てくる、いかにもフェアリー、フェアリーした、フェアリー・ストーリーの話のなかに、これほど現代的なテーマを盛りこむところは、見事としかいいようがない。えっ、現代的なテーマってなに? と思った方はぜひ読んでみてほしい。きっと納得してもらえると思う。

 

こんな従順な女の子を(夫に/妻に)ほしいなと思っている人にも、エレノアって自分みたいと思っている人にも、自分はどっちでもないけど、とびきり面白いファンタジーが読みたいと思っている人にもお勧めです!

 

 

2016/09/02 11:25