こんにちはサウザンブックスです。そろそろ「グルジ」がお手元に届き始めているとは思うのですが、この本の読み方・楽しみ方について、翻訳者の的野裕子さんに書いていただきました。
みなさまのお陰で…、紋切り型の台詞ではなく、本当にみなさまのお陰で、『グルジ』日本語版が無事出版できました。ありがとうございました! 手元に本が届いたとの報告を聞いていると、心から安堵と喜びでいっぱいです。
ですが、実際に『グルジ』を手にして、その厚さに読むのをひるんでしまった人もいるのではないかと思います。翻訳してる時は、まさかこんなに厚くなるとは思ってなかったんですけどねぇ(笑)
しかし、せっかくみなさまにこの本を届けることができたのですから、ここは最後まで読んでもらいたいと思うのが翻訳者の親心。というわけで、少しおせっかいかもしれませんが、分厚さに怖気づいてしまった人のために、『グルジ』の読み方指南的なものを書いてみたいと思います。
◎『グルジ』はエンタメ的におもしろい本
私が『グルジ』のことを「おもしろい本なんだよー」と言うと、相手はなんとなく「アシュタンガヨガの練習と知識がそれなりに深い人が“興味深い”という意味で“おもしろい”と言っている」と受け取られている気がします。でも、『グルジ』は本当に単純にエンタメ的におもしろいんです。
グルジの初期の西洋人の生徒、目次でいうところの「1970年代ーアシュタンガヨガはいかにして西欧に来たか」辺りの人たちは、ほとんどが70年代のヒッピーです。インタビューの最初では「どうやってグルジの元にたどり着いたか?」を話していることが多いのですが、その経緯やエピソードにカウンターパンチをくらいます。
少しネタバレになりますが、ヨーロッパから列車とバスを乗り継いで何日間もかけて“陸路で”インドに行ったり、70年代頃にはシルクロードならぬ“ヒッピーロード”というものがあり、それを通ってアジアを回りインドにたどり着いたり、予想を上回るアドベンチャーな旅路は、読んでいるだけで当時のヒッピーの旅をなぞっているようで楽しいです。
それから、インタビューの中でそれぞれが「自分とグルジの持ちネタ」を披露しています。全員ではないですが、ほとんどの人が「グルジにこんなことを言われたよ・されたよ(笑)」的なネタを持っていて、その中でもテッパンと思われるネタをぶつけてくれます。大抵が「エゴ丸出しの俺/私、グルジに懲らしめられる」という図式なのですが、今では有名な先生たちにもこんな時代があったのだなと親近感が湧いたり、強靭なエゴをへし折るグルジの指導手腕に感心させられたりします。人に歴史ありですね。
◎どれかひとつ読むなら「デヴィッド・スウェンソン」
中でも、読みやすさとおもしろさが飛び抜けているのは「デヴィッド・スウェンソン」のインタビューです。波乱万丈というとありきたりに聞こえますが、きっとこういう人生こそが“波乱万丈”というのだなと思うくらいに、アップダウンというか右往左往というか、とにかくすごいです。しかも、人生経験がすごいだけでなく、それをおもしろ可笑しく伝える、巧みな話術やサービス精神がすばらしい! さすが人気の先生だな、こういう話を何度もしてきているのだろうなというのがうかがえます。
そして、そのカラフルな人生経験と長年の練習や指導経験から生まれる、含蓄のある深い洞察とヨガの教えはとてもわかりやすいです。現代に生きる私たちは、ヒッピーやサドゥー(修行者)のような人生というより、現実的な社会生活を送りながらヨガの練習をしている人が多いと思うので、デヴィッド・スウェンソンの言葉がより響くのではないかと思います。
私はいつも、デヴィッド・スウェンソンの章を読み始めると、ついノンストップで読んでしまいます。それくらいジェットコースター的なおもしろさに満ちたインタビューなので、この本の厚さにひるんだ人や、読み始めて挫折しそうになった人は、まずはデヴィッド・スウェンソンを読んでみてください。
◎こんな人たちだったのか「マーク&ジョアン・ダルビー」
アシュタンガヨガの練習を始めた頃、私にはできないアーサナがたくさんあったので、「マーク&ジョアン・ダルビー」のDVDを見てよく宅練していました。そのDVDでは、マークが正式なアーサナ、隣ではジョアンが同じアーサナの簡易バージョンをやってくれるのです。だから、体が硬かったり開いていなかったりして、いわゆる理想形のアーサナができない時に、どにように練習に取り組めばいいのか参考にしていました。
このように、会ったことはなくてもDVDで見ていた先生だったので、この2人のインタビューを読んだ時は「え、こんな人たちだったの!?」と度肝を抜かされました。先生というのは、尊敬しているがゆえに少し美化されているようなところがあると思います。もちろん、マークもジョアンも本当に素晴らしい先生だと思うので、美化というほど現実と離れているわけではないですが、グルジに出会った頃の2人はバリバリのヒッピーで、その当時のエピソードがあまりにも強烈で、私がDVDを見て勝手に抱いていた印象とのギャップが大きかったのです。
70年代といっても若者全員がヒッピーではなかったでしょうから、ヒッピーになりインドを旅するというだけでも、2人とも少し極端なタイプだったのかもしれません。「よい子は真似しないでね」とか「あくまで個人の感想です」と言いたくなるような話が、インタビューの随所に散りばめられています。
◎基本情報を押さえたいなら「ガイ・ドナヘイ」から
『グルジ』日本語版を手に取ってくださっているのは、ある程度アシュタンガヨガの練習を続けている人だろうと思いますが、もしグルジの生い立ちや人生、アシュタンガヨガとはどういうものかなど、あまり知らないという人がいたら、最初に「ガイ・ドナヘイ」の序文を読むのをおすすめします。
そもそもこの本は、ガイ・ドナヘイがグルジのドキュメンタリー映画を撮ろうと思って、色んな人のインタビューを撮影して集めていたのがきっかけでつくられたので、ガイの序文はこの本を読むにあたっての下地となるような、基本情報を押さえたものになっています。前半でグルジやアシュタンガヨガについて解説し、後半は自分がどのようにアシュタンガヨガやグルジと出会ったのかを書いていて、本編のインタビュー内容や構成に近いのもあり、この本を読む準備としては最適です。
◎最後に
最初から順番に読み進められる人は、もちろんそうしてください。好きな先生、知っている人がいれば、そのインタビューから読むのもいいと思います。私は、この本を読むまで知らなかった人、「ブラッド・ラムジー」や「ジョセフ・ダナム」のインタビューもとても印象に残っています。特にジョセフはヨガの先生ではなく、陰ながらグルジを支え続けた人で、私もヨガの練習は続けているけれど、教えること以外で何かしらアシュタンガヨガを伝えることに貢献できたらと思っていたので、彼の生き方に畏れながら共感し、感銘を受けました。(ブラッドについてはクラウドファンディングの推薦文でも触れているので割愛します)
この本が好き過ぎて、思わず熱が入って長くなりましたが、分厚いというだけでひるんでしまうのはもったいない本なので、よかったらこの読み方指南も参考に最後まで読んでみてください。
2018年1月 的野裕子