こんにちは。サウザンブックス『PRIDE叢書』です。プライド叢書の第一弾として『ぼくを燃やす炎』がふさわしいと思った理由は、この小説が、悩んでいるセクシュアル・マイノリティを救う力になると思ったから。若いセクマイ、ことに地方に住む人たちはなかなかコミュニティともつながることが出来ず苦しい思いをしている。そんな中で地方でセクシュアル・マイノリティに関する活動をしようとする人も出てきている。河野陽介さんもそんな1人。河野さんに『ボクモヤ』プロジェクトへのエールをいただいた。(text/宇田川しい)
必要とされる地方での活動
今回、『ボクモヤ』プロジェクトチームでは地方のNPOなどとも連携をするべく連絡を取ろうとした。しかし、地方で活動する団体はクローズドなものが多く、ホームページなどがあっても休眠状態というケースも少なくなかった。地方は旧弊な家族主義が残っていたりとセクシュアル・マイノリティにとってはつらい環境だ。だからよりセクシュアル・マイノリティの団体が求められているのにそれがない。河野さんのように地方で活躍する人がもっと出てくることが求められている。
「たしかに地方はどうしても人間関係のしがらみがあったりと個人が尊重されない空気もあり、マイノリティには生きにくい面があります。ただ逆にその人間関係の濃さが幸いする場合もあるんです。行政のトップの人が問題を理解して解決しようと決めたら号令一下、いっきに変わっていく。そういうダイナミズムもあるんです」
なるほど、キーマンとなる人の理解を得ることができれば変化も早いのかもしれない。渋谷区のいわゆる「パートナーシップ条例」をきっかけに他の地方自治体にも流れが波及したように地方から国を変えていくという可能性も見える。
「僕の地元には市民活動支援センターがあってそこに団体登録して活動してるんですけど、そこの職員さんがとても理解を示してくれて力になってくれているんです。そういう人とのつながりの力は大きいですね。それから僕は本業が音楽家でそちらの仕事でつながった人たちもずいぶん力になってくれています」
東日本大震災で気づいた地元の大切さ
音楽という本業があるというのはアクティビストとしてはユニークだ。様々なアプローチが可能だろう。音楽から入ることでみんなが心を開いてくれるという効果もあるかも知れない。河野さんは小中学校の合唱指導などもしていて、その関係の保護者から活動が広がっていくことも多いという。
河野さんがLGBTアクティビストと音楽家の二足の草鞋を履いて地元で活動していこうと思ったきっかけは東日本大震災だった。大学入学で上京し茨城を離れていた河野さんは、それまでむしろ地元を憎む気持ちのほうが大きかったそうだ。
「地方というのは閉塞的で、ちょっと変わっているだけで白い目で見られるようなところがある。僕は男らしくない男の子だったのでいろいろと嫌な思いや窮屈な思いをしていました。だから地元に思い入れは持てませんでしたね」
それが変わったのはなぜなのだろうか。
「震災で茨城も被害を受けました。でも実家は無事でした。東北出身の友人の中には家が流されてしまった人もいたんです。もしなにかの条件が違っていたら自分の実家もなくなっていたかもしれない。地元の町も壊滅していたかもしれない。そう考えたら、せっかく残された地元を大切にしたいと思えてきました」
歌うLGBTアクティビストの誕生
そして音楽をやっている意味を考えた河野さんが出した答えが“歌うLGBTアクティビスト”として活動していくことだった。
「声楽科で学んでいたのでクラシックという枠にとらわれていた部分もあったんです。でもそんな枠にとらわれずやりたいことをやっていこうという気持ちにもなりました」
音楽とアクティビズムで地元をよくしていこうと活動する河野さん。自身が悩んでいた若い頃に本によって救われたことがあるそうだ。
「石川大我さんの『ボクの彼氏はどこにいる?』や、村山由佳さんの『BAD KIDS』などを図書館で見つけてとても勇気付けられました。本が持つ力は強いと思います。『ぼくを燃やす炎』もどこか地方の図書館に置かれるといいですね。『ボクモヤ』プロジェクト、応援しています!」
河野陽介(かわの・ようすけ) 東京芸術大学出身。音楽家として活動しながら2015年に市民グループ「多様な性を考える会 にじいろ神栖」を設立。出身の茨城県神栖市を拠点に、小中学校の生徒や保護者、教職員を対象とした講演などLGBTアクティビストとしての活動を展開している。