『弟の夫』のドラマ放映が大きな話題となった田亀源五郎さん。現在、月刊アクション誌上で新連載『僕らの色彩』に取り組むなど大活躍されています。超多忙な田亀さんが『In Our Mothers’ House』のために応援コメントを寄せてくれました。一問一答形式で語られた田亀さんのメッセージをお読みください。
■人の気持ちの普遍性を浮き彫りにしたい
−−『In Our Mothers’ House』もそうですが、PRIDE叢書では書物を通じた社会変革を目指しています。セクシュアル・マイノリティに対する偏見や無理解をなくしていくためにコミックや小説、アートといった創作が出来ること、やるべきことについてどのようにお考えでしょうか?
田亀 コミックや小説といったポップカルチャーやエンタテイメントのカジュアルさには、大きな可能性があると考えています。アートに関しては、私個人のフィロソフィーとして、逆にそういったことは意識しないようにしています。私にとってアートとは純粋な自己表現であり、そこに目的や効果を持ち込むことはノイズになるからです。ただし、動機ではなく結果として、何らかの効果が現れる可能性はあると思っています。また、こういった文脈での「やるべきこと」は、どんな創作の形であっても、全く意識していません。理由はやはり、創作に対するノイズになるからです。
−−現在、月刊アクション誌上に『僕らの色彩』が好評連載中です。この作品にはどのような思いが込められているのですか?
田亀 基本的には「自分が読みたいものを描く」という、いつもと変わらない動機で描いていますが、もう少し詳しく表現すると「中高生の自分が読みたかった/読んで欲しい」マンガというのを意識しています。内容は、同級生に恋をしているけれど、その気持ちを誰にも言えないゲイの男子高校生が、ある日いきなり見知らぬ年配の男性から「好きだ」と言われたことから始まる、日々の様々な悶々を爽やかに描きたいと思っています。そこから「人の気持ちの普遍性」を浮かびあがらせて、広い層に届けることができたらベストですね。
■子育てについて第三者がジャッジすべきではない
−−前作『弟の夫』ではマイクと涼二はゲイの夫婦で、弥一はシングルファーザーと、いわゆる「標準世帯」ではない家族が描かれています。実際、すでに標準世帯は最も多い家族の形ではなくなり、多様な形の家族があるのが現状です。
田亀 多様性はあって当然だと思います。そして課題にすべきなのは、そうした多様性にする是非ではなく、社会的な受容の有無だと思っています。
−−日本でも絵本に描かれているようにレズビアンカップルが子育てしているケースは表に出ていないだけでそう珍しくないものなってきています。
田亀 シングルであろうとカップルであろうと、レズビアンやゲイであろうとヘテロであろうと、子育てについて第三者が何かジャッジすべきではないと思っています。身近な同性カップルでは、子育てをしている人はいませんが、比較的身近なところでそういう実例を聞いたことはあります。
−−しかし、セクシュアル・マイノリティの子育てが語れる時にしばしば「子どもがかわいそう」、「子供どもがいじめられる」などと言う人がいます。こういった考えについてどう思われますか。
田亀 「かわいそう」に関しては、単なる偏見だと思います。「いじめられる」に関しては、どんな形であれ「いじめ」というのは、いじめられる側ではなくいじめる側の責任が問われるべきだと思っています。現実に起こりうる問題には、理想論だけではなく対処療法的なものも必要だとは思いますが、かといって、そうしたスティグマの存在自体を是としたくはありません。こういう問題は同性カップルに限らず、例えばシングルペアレントや国際結婚でも同様だと思っています。
■マイノリティが連帯していくということ
−−セクシュアル・マイノリティ当事者でも婚姻の平等は求めても子育てまでは行きすぎと考える人もいるようです。そのような考えについてどう思われますか?
田亀 そう思う人は、自分がその道を選ばなければ、それでよろしいのでは。それを他人にも求めるのであれば、それは反対です。また、先ほどの話にも共通することですが、現実に存在している同性カップルの子育てに対して、こうした言論は何の助けにもなりませんし、逆にスティグマ化を促す危険性もあります。ですから尚更、自分の選択と他人の選択は、分けて考えて欲しいと思います。
−−「近くて遠いLとG」という言葉もありますが、今回のプロジェクトをゲイにもっと応援してもらうことで、レズビアンとゲイ、もちろん他のセクシュアリティも連帯していけたらという思いがあります。また人権という普遍的な問題として考えるなら、セクシュアル・マイノリティ以外のマイノリティとも連帯していくべきだと思うのですが。
田亀 共通する課題なら共闘できますし、そうでない場合もサポートできる可能性があると思っています。できるところは一緒にやる、できなくても可能性があれば応援する、どちらでもなければ沈黙する、そして指図はしない……といった感じですね。
田亀源五郎(たがめ・げんごろう)
1964年生まれ。ゲイ・エロティック・アーティスト。多摩美術大学卒業後、アート・ディレクターをしながら1986年からマンガ、イラストレーション、小説等をゲイ雑誌に発表。1994年、専業作家に。ゲイ雑誌『G‐men』の起ち上げにも関わる。海外でもアーティストとして高い評価を受けている。2014年、「月刊アクション」に『弟の夫』を連載開始。一般誌でのゲイをめぐる作品の掲載が話題に。2015年、同作で文化庁メディア芸術際マンガ部門優秀賞を受賞。
超多忙な中、メッセージをお寄せいただきありがとうございました!
田亀さんの創作活動の根本に、個をたいせつにしたいという背骨のような考えがあるように感じました。誰もが自分らしく生きられる社会にしてくために、なんとしても『In Our Mothers’ House』を出版し、これからもPRIDE叢書として努力していこうと思います。
(text:宇田川しい)