こんにちは、サウザンブックスです。
9月21日の「活動報告」にて、この絵本の翻訳は、スペイン語の児童文学翻訳の第一人者である宇野和美さんにお引き受けいただいたことをお知らせしましたが、改めて、この絵本の魅力についてお話を伺いました。
「黒い本」をはじめて見たのは?
2007年にはじめてメキシコのグアダラハラブックフェアに行ったときだったと思います。メキシコには、大手出版社のほかに、個性的な児童書出版社がいくつかあるのですが、この本を出しているテコロテ社もそういう出版社の1つです。黒い紙に銀色の文字がのった表紙、もりあがった特殊なインクで印刷された絵を見て、「こんな本があるんだ!」と、びっくりしました。全ページ黒というのは意表を突かれました。
で、編集者にすぐ見せたのですか?
「こんな絵本がありましたよ」と、折にふれていろいろな編集者に見せましたが、この特殊インクの仕様はコスト面で難しいだろうという思いが先にたって、「出しましょうよ」と強く働きかけはしませんでした。また、具体的に出したいという話は、あがってきませんでした。
でも、本としてはずっと心に残っていたので、私が経営するスペイン語のネット書店、ミランフ洋書店で仕入れて、原書を売ることにしました。それが、NPO多言語多読の川本さんの手に渡り、今回のクラウドファンディングにつながったので、ご縁を感じています。
「黒い本」はスペイン語圏ではどのように評価されていますか?
刊行当初から注目されていました。何しろ美しくユニークな絵本なので。2年後に、スペインで最も意欲的で定評のある絵本出版社のひとつリブロス・デル・ソロ・ロホ社がスペインにおける版権を取得して売り出したのも、やはり、という感じでした。スペイン語圏の児童書出版におけるテコロテ社の評価を確立した本と言ってもいいと思います。
この本は、IBBY(国際児童図書評議会)のバリアフリー図書にも選定されていますね。
はい、2011年のリストに入りました。最初にこの本を見たとき、目の不自由な方のための本だろうと思ったのですが、IBBYの選定図書カタログを見ると、「目の見えない人の色の感じ方を、晴眼者が追体験する本」というふうに解説され、さらに、「目の見えない人、見える人が共に楽しめる本」と書かれています。
この「共に楽しむ」というのが、いいなあと思います。確かに、特殊印刷された絵は、日本の点字絵本の絵とは違いますが、言葉から五感のイメージを喚起して、指で触れ、目の見えない人も、見える人も一緒に色を感じるわけです。「五感で感じる色の本」といった感じでしょうか。この本が図書館に置いてあったら、さまざまな人が手にとって、五感で色を感じる体験をできることでしょう。そうなったらステキです。
テコロテ社について、もう少し詳しく教えてもらえますか?
ラテンアメリカの絵本出版は、だいたい1980年代に入って始まりましたが、テコロテ社は1993年の創業です。メキシコの歴史の本や昔話、メキシコの文化に根差した本など、1年に数点、非常にていねいな作りのオリジナルの絵本を中心に出版しています。日本でもよく知られている歌「ラ・クカラチャ」や「ラ・バンバ」のしゃれた本もあります。
この本の著者であるメネナ・コティンさんの絵本は、コティンさんが絵も文も手がけたユニークなものをほかにも多数刊行しています。
2012年には、Migrar (移住)という本で、やはりボローニャのラガッツィ賞ニュー・ホライズン部門の大賞を受賞しています。こちらもとてもユニークな本で、アマテ紙に書かれたコデックスの様式をまねた掛け軸のような形で、メキシコからアメリカの国境を越えていく移民の姿を描いたものです。本と呼んでよいのか迷いますが(笑)
最後にみなさんに一言。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
3年前の秋、やはりグアダラハラブックフェアでテコロテ社の社長クリスティーナ・ウルティアさんにお会いしたとき、「日本の人たちは、どうしてこの本を翻訳してくれないのかしら」といきなり声をかけられました。そのときはもごもごと言葉を濁しましたが、今回、プロジェクトが成立し、点字シートをつけて万全の形で出版がかなったなら、胸をはってお見せしたいです。ほそえさちよさんが編集についてくださるので、読者にとってもこの本にとっても、最もよい形で刊行できることと思います。
この本を、みんなで開いて、読んで、触れて、感じる日が来ることを願っています。
お力添えのほど、どうぞよろしくお願いします。
宇野和美
スペイン語翻訳者として長く子どもの本の翻訳に携わり、20点以上の絵本翻訳の実績がある翻訳者。JBBY(一般社団法人 日本国際児童図書評議会)理事を務め、スペイン語の子どもの本専門書店「ミランフ洋書店」の経営も行っている。