質素な食事だった。が、ベーコンと黒パンとヤギの乳で作ったチーズとリンゴを食べ終わるころ、自分がオート麦の固いパンとたき火で料理したウサギの肉にいかに飽き飽きしていたか、ガウェインにはわかった。荒れ地をさまよい歩いた何ヵ月間かが夢のように記憶から薄れていった。できることなら暖炉の前で手足を伸ばし、ゲラートのように満足気な声をあげたかった。しかし、ガウェインは上品にナプキンで指をぬぐうと、どこへいっても同じようにしたであろう礼儀正しい態度であるじに食事の礼をいった。
(『五月の鷹』p.156 福武書店1992年)
『五月の鷹(The Hawk of May)』の復刊を切望する「同志」の皆さま。音食紀行という世界各国の歴史料理を再現するプロジェクト主宰の遠藤雅司と申します。この度、クラウドファンディングを使ったアーサー王関連書籍(アン・ローレンス『五月の鷹』)の復刊企画で発起人として活動している『五月の鷹』応援団 シオン様よりお声がけいただきまして、不相応ながら応援メッセージをしたためたく駆けつけました。
まずは、目標金額達成!心の底から嬉しいです。微力ながら、私も応援いたしました。リターンの確定という大きな果実をいただけたこと、同志の皆さまと共に未来のどこかで『五月の鷹』復刊本が読めるという喜びがあること、人生の愉しみが味わえること、素直に嬉しいです。
『五月の鷹』の魅力は瑞々しい文章からリアルにその情景が味わえることでしょうか。冒頭に引用した「ガウェインの食卓」ともいうべき、ベーコンと黒パンとヤギの乳で作ったチーズとリンゴを味わう場面では、 それまでの荒れ地を歩んで食べてきたオート麦の固いパンとたき火で料理したウサギの肉との対比が頭の中でアリアリと想像でき、まるでガウェインが傍らで堪能しているかのような錯覚に陥ったような心地を物語から堪能できます。この場面からでも読みたい!ガウェインを感じたいという衝動に突き動かされるかもしれません。私はそうでした。
私事ですが、現在『アーサー王と円卓の騎士の食卓(仮)』という歴史料理の本を作るべく原稿に着手しました。これから、自分自身との戦いに向かいますが、「ガウェインは上品にナプキンで指をぬぐうと、どこへいっても同じようにしたであろう礼儀正しい態度」という本書のガウェインの立ち振る舞いを思い出し、何度でも甦って本を完成させるという気持ちで、2020年の年末及び2021年に向かっていきたい次第です。
自分にとって、様々な栄養ドリンクの何百倍もの効能を有する『五月の鷹』。日々、ガウェインの物語を読み返し物語に浸れる喜びを将来迎えるのを楽しみにしています。
音食紀行主宰
遠藤雅司
『歴メシ!』
『英雄たちの食卓』
音食紀行・遠藤雅司 (おんしょくきこう・えんどうまさし)
歴史料理研究家。世界各国の歴史料理を再現するプロジェクト「音食紀行」主宰。
著書に『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』(柏書房)、『英雄たちの食卓』(宝島社)、 『宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓―時空を超えて味わうオペラ飯』(春秋社)。新刊に『古代メソポタミア飯』( 2020年12月 刊行)がある。
また、漫画「Fate/Grand Order 英霊食聞録」で食文化と料理を監修。明治の食育サイト「偉人の好物」にて監修を担当。
音食紀行公式サイト http://onshokukiko.com/wpd1/