発起人の中垣君とはもう随分長い付き合いになる。
大学の文学系サークルで出会ったのだが、他のメンバーが小説や詩作に耽る中、ひとり書評や文化時評を魔法のように量産する中垣君を、内心軽い憧れをもって見ていたものだ。フランス文学かぶれだった僕が、こっそりトマス・ピンチョンを手にとったりしたのは、中垣君の影響だったことは内緒にしておこう。
その後、彼は文学研究者の道を進み、僕はなぜか医療系出版社を経営するようになった。
卒業以降、正直、中垣君と僕の道がクロスすることはないだろうと思っていた。
だから「グラフィック・メディスン」という活動を通して再会した時は驚き、今回の『テイキング・ターンズ』でクラウドファンディングにチャレンジするという話をきいた時には、彼のコミックスと医療をつなぐ可能性を探求する情熱を少し斜めに見ていた自分を恥じた。
中垣君は、患者とその家族、医療従事者を繋ぐための「グラフィック・メディスン」の可能性を本気で突き詰めようとしているのだ。
僕らが出会ったのは、まさに『テイキング・ターンズ』の舞台となる1990年代前半だった。
マジック・ジョンソンがHIV感染をカミングアウトした年に大学生活をスタートさせた僕ら世代。
今思えば、当時、HIVを取り扱うエピソードは無知や偏見も含めそこかしこにあった。
1992年公開の映画『私を抱いてそしてキスして』も映画館で観た記憶がある。映画の冒頭では厚生省(当時)のHIVウイルスへの啓発教育的な映像とメッセージが流され、本編では患者の悲劇や希望のエピソードが描かれていた。
ただ、僕たちは、バルセロナオリンピックでマジックが参加するNBA「ドリームチーム」の金メダルをお茶の間で賞賛しながら、実際のところ、その陰で闘っていた患者や医療従事者のことなど想像もしていなかったと思う。
そう、『テイキング・ターンズ』は、僕らに四半世紀の時を超えて、HIVと闘った人たちの真実の姿と向き合わせてくれる作品なんだと思う。
その後の治療の発展で、HIV感染者の生命予後は飛躍的に改善して現在に至る。
マジック・ジョンソンもご存知の通り元気だ。
2020年、僕らは新型コロナウイルスと向き合っている。
新型コロナウイルスの治療法は必ず開発されるし、未知の恐怖は既知の安心感へと変化していくだろう。
それをこの『テイキング・ターンズ』はきっと教えてくれる。
中垣君、『テイキング・ターンズ』を翻訳する決心をしてくれてありがとう。
僕は読みたい。そして、多くの人に読んでもらいたい。
君のチャレンジには勇気をもらった。
お前も老け込んでる場合じゃない、新しいことにチャレンジしてみろって言われた気がした。
このクラウドファンディングには絶対に成功してもらいたいんだ。
だから、力いっぱい応援する。
Taking Turns...かわりばんこ。
そう、次は僕がチャレンジする番かもしれないからね。
落合隆志(おちあい・たかし)
一般社団法人日本グラフィック・メディスン協会代表理事。日本で唯一の医療人文専門出版社さいかす及び医療系編集プロダクション株式会社メディカルエデュケーションの代表取締役。
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