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エイズが死に至る病だった1990年代前半、
医療従事者や患者を描いた海外コミックス
『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』を翻訳出版したい!

精神科医の小森康永さんから応援コメントが届きました!

精神科医の小森康永(こもり やすなが)さんは、愛知県がんセンター精神腫瘍科部長として医療に携わりながら、「グラフィック・メディスン」の概念を日本に導入する活動も積極的に手がけています。『テイキング・ターンズ』の著者MK・サーウィックとも親交があり、作者が筆頭論者をつとめる研究書『グラフィック・メディスン・マニフェスト――マンガで医療が変わる』(北大路書房、2019年)の翻訳も刊行されています。


 『テイキング・ターンズ』は、新人看護師であったMKがシカゴのエイズ病棟で1994年から1999年(新薬による患者激減のための閉鎖)まで働いたマンガ記録です。一人称で実に親密に語られたその物語は、彼女の看護師としての成長物語であり、その病棟の物語であり、もちろんそこで死に、生き残った患者や家族の物語でもあるわけです。だから、今や医療の中心になった看護師にまずもってしっかり読んでもらいたい。これが多職種協働なのだと実感できるはずだから。エイズとがんはどちらも緩和ケアの対象だから、これはそのまま緩和ケアのオリエンテーションとしても最適です。これを読むべき読者層は、患者、家族、医療者、医療系学生など幅広いと思いますね。

 まずは、つかみが抜群に上手い。MKは看護学生としての病棟実習初日に、看護学生を辞めると言い出しました。担当患者が、父親の死を想起して余りあったから。2頁目には、自分史を少しだけさかのぼって、大学を出たのに、コピー取りと税務処理という幻滅の日々が描かれ、3頁で、MKは、母親と同じ看護師になると言いだします。本書の第一主題は、著者自身の看護師としての成長物語にあります。

 第二に、本書は、エイズ病棟で働く様々な職種の人々のケア観を明瞭にして行きます。たとえば、p.12では、サイコオンコロジスト(精神腫瘍医)のイロハである、「ベッドサイドでは必ず座ること」が、看護師のプリセプターシップ(新人看護師が仕事に溶け込めるように技術およびメンタルのサポートを行う教育システム)の中で、なんとも自然に描かれていますし、p.50、53では、アートセラピーの効用が描かれると共に、アートセラピストが、人は何のために生きるかを新しく見つけることができるものだという信念を披露しています。

 第三に、もちろん、これはエイズ患者自身の物語です。p.61に、あるべき看取りが描かれる一方、p.104、105、129では、友達患者からの「死ぬときはどんな感じなの?」に対する答えを求めてMKが煩悶するさまが描かれています。

 第四に、p.139は、大学での死の教育の不足について疑問が投げかけられています。

 そして、最後に、もう一度、医療者の成長という側面に光が当てられています。エイズ病棟が閉鎖になりMKが完全な脱力感の中、マンガに希望を発見する場面(p.165、166)は実に圧巻であり、グラフィック・メディスンの源であるかと思います。

 唯、繰り返し読むことが求められているのではないでしょうか。これが一人でも多くの読者の手に届くためには、やはり日本語訳が不可欠でしょう。
 

小森康永(こもり やすなが)
1985年岐阜大学医学部卒業。精神科医。臨床心理士。日本家族療法学会編集委員長。
現在、愛知県がんセンター精神腫瘍科部長



 
『グラフィック・メディスン・マニフェスト――マンガで医療が変わる』
著:MK・サーウィック、イアン・ウィリアムズ他
翻訳:小森康永、平沢慎也他訳
発売年月:2019年6月
ISBN:978-4-7628-3069-3
発行:北大路書房



『母のがん』

著:ブライアン・フィース
翻訳:髙木萌
解説:小森康永
発売年月:2018年3月
ISBN:978-4-908736-09-4
発行:ちとせプレス
 

 

2021/01/22 12:05