本書の主人公リシャール・ルロワ氏が実践する「ビオディナミ農法」は、しばしば「スピリチュアルな農法」と言われます。それは天体の運行を読んだ暦に従い、独自の天然成分の「調合剤」を散布する、つまり占星術的な視点を加えた農作業を行うことにあります。しかし、その現場の実態は、なかなか明らかにされることはありません。本書では、その特殊な作業の様子が丹念に描かれているだけでなく、この大変な労働に従事する作業者たちの息づかいまでが感じ取れます。まさに「ビオディナミ農法」を知りたい人には貴重な記録となっています。
今回は、その作業の一端をご覧ください。
ここで描かれる「501」というのが調合剤です。石英(クリスタル)と水晶(クォーツ)を主要素材として、細かく粉末状にしたものを雄牛の角に詰め、一定期間地中に埋めて調合剤にします。使うときには、水で薄め、その液体を植物に散布します。この調合剤は、植物の光合成を促進しますが、特に日の出の時に噴霧するとその効果は増大するとされ、作業者たちは早朝に集合しているわけです。
この作業は太陽が頂点に昇っても続きます。その間、作業者たちはこの調合剤の液体を、何度も背負ったタンクに入れ直し、汗だくになって散布を続けます。人間はヘトヘト。でも、しばらくすると、全てのブドウの葉っぱが、しっかりと太陽に向くそうです。
※実際の出版時には原作のフランス語版から訳出しますが、今回については、イタリア語版を用いた京藤の試訳です。