皆さん、こんにちは
Whipping Girlの翻訳を担当している矢部文です。
昨日、注記箇所を除き、翻訳作業を終えることが出来ました。
出版予定日を大きく狂わすことがあってはならないと思いながら作業していたので、肩の荷が下りた感じがします。と同時に、これまでほぼ毎日顔を突き合わせてきた(2007年当時の)ジュリア・セラーノと、ここでいったんお別れするのは寂しいなあとも感じています。
翻訳文を読み返すたび、「ここは直さねば」「この言葉はどうなんだろう」と課題が見えてしまうのは、翻訳者にありがちな業深さゆえかもしれません。今回は、2000年代初期に米国のコミュニティで使われていた言葉を、私個人の価値観をなるべく投影せずに20年後の日本語に置き換える作業でしたので、当然のことかもしれません。セラーノはトランス目線によるトランスジェンダー用語の使い方に強いこだわりをもっています。米国に住む私には、日本語のトランスジェンダー用語に対する皮膚感覚がいまいち欠如しており、慎重になりがちな部分がありました。例えばGender Identity Disorder (GID)ですが、一般には「性同一性障害」と訳されていると思います。ただ、この用語が喚起するイメージや歴史などが日本に固有なものかもしれないと思い、ジェンダー・アイデンティティ障害とカタカナにしてみました。今後、監訳者の遠藤まめたさんからアドバイスを頂いて、最終バージョンにしていきます。
もう一つの課題は、Theyの訳出のしかたでした。ジェンダーニュートラルな言葉の導入が進む米国では、”A customer”のように性別がわからない主語の場合、次はTheyで受けるのがLGBTQ コミュニティ内だけでなく、一般ビジネスシーンでも当たり前になりました。でもこれを日本語にしようとすると困ったことになります。Theyを「彼ら」とするのがまだ一般的なのでしょうが、今回の作業では「彼ら」を意図的に使わないようにしました。その結果、日本語としてうまくこなれていない印象になっている箇所が多いかもしれません。関係者の皆さんともう少し話し合いが必要になるかなとは思いますが、この部分を含め、編集者の宮崎綾子さんにはご苦労をおかけすることになると思います。
訳了した日、うれしくて「終わった!」とツィートしたら、ジュリア・セラーノから「よかったね、おめでとう!」と、早速返事を頂きました。彼女は遠い存在ではなく、米国クィア+トランス・コミュニティの仲間なんだと実感した一瞬でした。
皆さんのお手元に届くのはもう少し先になりますが、楽しみにお待ちください。
ご声援ありがとうございました
(矢部文)