皆様、こんにちは。発起人の橋本恭子です。
「おばあちゃんのガールフレンド」という本書のタイトルを初めて目にしたとき、皆さんはどう思いましたか?「え、何?」と不思議に思った方もいらしたのでは。今日はそんなタイトルがどのように誕生したか、台湾同志ホットライン協会の喀飛さんにお話しいただきます。
文:喀飛 訳:橋本恭子
2010年に台湾で『虹色熟年バス旅行』という本が刊行されました。実は、前年の2009年に台湾同志(LGBTQ+)ホットライン協会の中高年同志ワーキンググループが高齢同志の日帰り旅行の活動をスタートさせていました(これまで、年2回、10年以上開催されていますが、ここ数年コロナ禍により休止しています)。当時、このイベントは「虹色熟年バス旅行」と呼ばれていたので、2010年にこのグループのミーティングで書名が検討された際、これが採用されたのです。
その後、販促活動にあたり、出版社が本のカバーの宣伝文句を「台湾のおじいちゃん、カミングアウトするぜ」としました。「おじいちゃん」(阿公)「おばあちゃん」(阿媽)は台湾語で年長者や人生の先輩に対する敬称として使われ、自分自身の祖父、祖母以外の年長者にも「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼びかけるのは、親しみや敬意を表してお互いの距離を縮めるためです。そのため、2010年の『虹色熟年バス旅行』の販促用ブックカバーには「おじいちゃん」が採用され、2020年に中高年レズビアンのインタビュー集の書名が議論された時も、数多くの候補の中で大人気だったのは「おばあちゃんのガールフレンド」であり、最終的にこれが選ばれました。
これら2冊の刊行には10年の隔たりがありますが、販促用のブックカバーや書名に「おじいちゃん」「おばあちゃん」を用いたのは、読者との距離を縮め、一般大衆の好奇心や関心を集めるためです。台湾の同志コミュニティのうち、レズビアンコミュニティーでは中高年の男性的レズビアンはふつう英語で「uncle」と呼ばれ、反対に、ゲイコミュニティーで一目置かれている「漢士サウナ」の経営者などは敬意を込めて「おばあちゃん」と呼ばれています(彼は『虹色熟年バス旅行』に登場していますが、他の登場人物をたくさん紹介してくれたキーパーソンでもあります)。
『虹色熟年バス旅行』の12篇の物語にしろ、『おばあちゃんのガールフレンド』の17篇の物語にしろ、登場人物の多くは当時の社会や家族のプレッシャーによって異性との結婚を強いられ、たとえ彼女ら、彼らに同志としての生活があったにしろ、カミングアウトはせず、あるいはできない状況下で、周囲の家族や友人から見たら、ごく普通のおじいちゃん、おばあちゃんでした。
ですから、「台湾のおじいちゃん、カミングアウトするぜ」と「おばあちゃんのガールフレンド」というタイトルで読者の注目を集めようとしたのは、なかなか目に入らない中高年同志の誤ったイメージを打ち破り、読者と大衆をあっと言わせたかったからなのです。もともと身の回りに中高年の同志がいないわけではなく、単に彼女ら/彼らがカミングアウトしていないだけなのだと。
ブックカバーや本のタイトルに「おじいちゃん」「おばあちゃん」を使ったのは、あたかも社会が期待する異性愛者の家族制度を強化しようとして、年配の同志をこう呼ぼうと奨励したり、支持しようとしたわけではありません。反対に、少し諧謔的なタイトルをつけることで、それまで当然と思われていたことを覆したかったのです。
作家の瞿欣怡(チュー・シンイー)*さんがフェイスブックに『おばあちゃんのガールフレンド』の書誌情報を投稿したとき、彼女の友人は、「それって、ガールフレンドのおばあちゃんでしょう!おばあちゃんのガールフレンドなんてありえない。書き間違えたんじゃない?」とのコメントを残しました。けれど、本書のタイトルが指すおばあちゃんというのは、必ずしも一般に思われている「おばあちゃん」ではないのです。彼女にも自分自身の物語があり、女性との性的な体験談だってあるのです。
*瞿欣怡
「子猫ちゃん」のニックネームで知られる記者・作家・フェミニズム運動の活動家。レズビアンであることをオープンにしている。『一緒に年をとろうって約束したよね』(『說好一起老』寶瓶文化、2015年)では、同性パートナーを失った後の感情の変化が綴られている。彼女の友人ですら上記のような質問をしているのであれば、年配レズビアンに対する一般大衆のイメージは推して知るべしだろう。
喀飛
台湾のLGBT運動30年の歴史を総括した『台湾同運三十』(一葦文思出版、2021年)の著者。中高年ゲイのオーラルヒストリー集『彩虹熟年巴士:12位老年同志的青春記憶』(『虹色熟年バス旅行:高齢ゲイ12名の青春の思い出』基本書坊、2010年)の主編、『阿媽的女朋友』(『おばあちゃんのガールフレンド』大塊文化、2020年)の企画責任者、台湾同志ホットライン協会創設者・理事長。
物語はなぜ必要なのか?『阿媽的女朋友』の企画責任者の喀飛さんより
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