こんにちはサウザンブックスPRIDE叢書です。
立命館大学文学部教員の三須祐介さんから、応援のメッセージを頂戴致しました!
当事者そしてすべての人にとって道しるべとなりうる小さな歴史たち
三須祐介
すべての人は一回きりの人生を生き、その人生はつねに初体験のことの積み重ねです。だからこそ人は生きていくための道しるべを、知らず知らずのうちに見つけていると思います。マジョリティである異性愛者には、道しるべとなりうる人生の先輩が目に見える形で存在しています。それは親や周囲の大人たちであり、多くの小説や映画などからも自分の人生を思い浮かべることは可能でしょう。どのように恋愛し、結婚し、家庭をもち、子どもを育て、そして老いていくのか。まったく無意識に、違和感もないまま、それらの道しるべを自分の人生の参考とすることができます。
しかし、セクシュアル・マイノリティの当事者にとって、とりわけそれを公にすることが難しい保守的な社会にあっては、自分がどのような人生を送ればいいのか、道しるべのような存在にはなかなか出会うことはできません。
『おばあちゃんのガールフレンド』には、今まで見えなかったマイノリティのための人生の道しるべが可視化されています。「おばあちゃん」たちはもちろん順風満帆とはいえない人生を送っています。でもそこには確かに、この時代や社会を生き抜いてきたリアルな人生が描かれています。恋愛やセックスだけではない、なんとか生き延び老いていく人生そのものがここには記されているのです。ここに記された「おばあちゃん」たちの生きざまは、きっと新しい世代が生きていくための道しるべとなり、励ましになるはずです。
この本の注目すべき特徴のひとつは、大きな歴史では描かれることのなかった小さな歴史、すなわち「おばあちゃん」たちのオーラル・ヒストリーを聞き書きする若い世代の当事者たちの応答も、同時に掲載されていることです。若い世代の当事者が「おばあちゃん」たちの人生を通して、自分の生をあらためて見つめ直す可能性も読み取ることができます。
そして、ないものとされてきた人生、いままで見えなかった人生を知ることは、誰にとってもその人生を豊かにしてくれるはずです。この本がすべての人の人生の道しるべとなることを願ってやみません。
三須祐介
立命館大学文学部教員。専門は近現代中国語圏の演劇、文学。共著『旅する日本語:方法としての外地巡礼』(松籟社、2022年)、 台湾小説の翻訳には『台湾文学ブックカフェ3 短篇小説集 プールサイド』(作品社、2022年)、徐嘉澤『次の夜明けに』(書肆侃侃房、2020年)、胡淑雯『太陽の血は黒い』(あるむ、2015年)。