皆様、こんにちは。デイヴィッド・マッズケリのグラフィック・ノベル『アステリオス・ポリプ』の翻訳出版プロジェクト発起人の矢倉喬士です。クラウドファンディングが始まってから3週間以上が経ちました。現段階で190名以上の皆様からのご支援を頂いており、感謝を申し上げると同時に、改めて、それだけ大きな魅力を持った作品なのだと感じます。
さて、『アステリオス・ポリプ』は建築・美術・音楽・演劇・文学など様々な要素が詰め込まれた作品で、それらの要素を知れば知るほど作品の奥深さを味わうことが可能になります。そこで、クラウドファンディングのプランのなかに、各分野の専門家をお招きして全6回の講義を行い、作品を味わい尽くそうというプランがあります。以下に、ゲスト講師の6名の皆様をご紹介します。
・大和田俊之さん
慶應義塾大学教授。専門はアメリカ文学、ポピュラー音楽研究。『アメリカ音楽史』(講談社)で第33回サントリー学芸賞(芸術・文学部門)受賞。他に『アメリカ音楽の新しい地図』(筑摩書房)、長谷川町蔵との共著『文化系のためのヒップホップ入門』(アルテスパブリッシング)など。
(図はアステリオスとハナが、実験的音楽の作曲家カルヴィンに出会う場面。ここでカルヴィンはギリシャ旋法(グリーク・モード)による作曲を試しており、彼が杖をついているのは1965年の公民権運動のデモで暴行を受けたからである。この場面を読んで、大和田俊之さんが『アメリカ音楽史』のなかで、モードや音階が持つ民族性及び公民権運動とのつながりを論じていたことを思い出した。『アステリオス・ポリプ』には、カルヴィンの他にも、マルクス主義的パンクロッカーのジェロニモのような超個性的音楽家が登場する。大和田さんならこれらの音楽的要素をアメリカ文化史と合わせてコメントをして頂けるのではないだろうか。)
・サヌキナオヤさん
イラストレーター/漫画家。京都市生まれ。小説の装画や雑誌などでイラストを手がけるほか、漫画執筆、映像制作など。またアートワークを担当するバンドHomecomingsと共に、映画と音楽のイベント「New Neighbors」を共催している。 2019年にHomecomings福富優樹原作のマンガ『 CONFUSED! 』 (KADOKAWA) を出版。
(漫画家やイラストレーターの目から見て、『アステリオス・ポリプ』はどのように映るのだろうか。この場面は、アステリオスとハナが結婚した1986年のシーン。ハナは少女漫画と浮世絵を合わせたようにキャラクターデザインされているが、ここではハナの周囲の事物まで水墨画のようなタッチで描かれている。『アステリオス・ポリプ』は、パラパラとページをめくって眺めているだけでも飽きのこない美しい作品であるが、ミュージシャンの福富優樹さんと共作の漫画『CONFUSED!』にて、架空の町グリーンバーグを舞台にした群像劇を展開したサヌキナオヤさんには、人物の描き分けや背景デザインについて漫画家の視点から解説をお願いしたい。)
・岩元真明さん
建築家。九州大学助教、ICADA共同主宰。専門は建築設計と近現代建築史。主な建築作品に節穴の家(2017)、TRIAXIS須磨海岸(2018)、九州大学バイオフードラボ (2019)、桜坂の実験住戸(2021)など。研究者としてはレム・コールハース、ヴァン・モリヴァン、葉祥栄などの建築家の作家論を展開している。「建築家が主人公の『アステリオス・ポリプ』を、建築デザインの視点から解読するのがとても楽しみです。」
(上の2枚の図は、アステリオスが出生時に死に別れた双子のイグナチオと、夢の中で出会う場面である。モダニズム建築をこよなく愛し、図面を描く能力には長けているものの、一度もそれが建設されることがなかったアステリオスは、死んだはずの兄弟が建築家として大成しているところを目にする。妻に捨てられて無気力に暮らしていたアステリオスとは異なり、イグナチオは妻と子と幸せな家庭を築き、世界を飛び回って活躍しているようだ。どうやら、アステリオスが建造物を築けなかったことは、周囲と確かな人間関係を築けなかったこととも関係しているようで、夢の中のイグナチオの姿はアステリオス自身がそうなりたかった姿のようにも思われる。建築家の岩元真明さんには、この夢の中の建築を初めとして、作中に見られる建築について読み解いて頂きたい。)
・辻佐保子さん
早稲田大学でアメリカ演劇、特にミュージカルを研究。二人組のミュージカル作家ベティ・コムデンとアドルフ・グリーンの劇作法を、映画・ラジオ・テレビとの関係から分析し、近年では、演劇や映画の批評、オペラ演出家へのインタビューへも活動を広げている。「初めて真剣に読んだグラフィック・ノベルが『アステリオス・ポリプ』でした。グラフィック・ノベルであることへの真摯さ、多角的な読みを誘う奥深さに魅了されました。」
(これは何の説明もなくいきなり白黒の演劇調になる場面。蛇の毒で死んでしまった妻を思うオルフェウスの冥府への旅が、アステリオスに重ねられている。振付師のウィリーというキャラクターが『オルフェウス』という劇作品をつくろうとしてドタバタを巻き起こす展開があり、それと関連していると思われるが……?『アステリオス・ポリプ』全体がギリシャ劇を模している節があり、演劇を研究してこられた辻佐保子さんの知識はこの作品の読解を助けてくれるはずだ。また、辻さんは各分野の専門家を招いて2016年に行った『アステリオス・ポリプ』オンライン読書会のメンバーでもあり、複数回読むと作品の理解度が大きく上がる本作の解説者としてとても頼りになるだろう。)
・別所隆弘さん (@TakahiroBessho)
フォトグラファー、文学研究者、ライター。関西大学社会学部メディア専攻講師。GOOPASSコミュニケーションアドバイザー。National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストであるNature Photographer of the Year “Aerials” 2位など、国内外での表彰多数。写真と文学という2つの領域を横断しつつ、「その間」の表現を探究している。滋賀、京都を中心とした”Around The Lake”というテーマでの撮影がライフワーク。日経COMEMOで記事配信中。
(『アステリオス・ポリプ』は、その人物描写も見事ではあるが、時間に追われてせわしない日々を生きて死ぬ人間たちとは大きくかけ離れたスケールで、恐竜たちが生きていた数千万年前から現代までの時間を扱い、人間の諸問題がとてもちっぽけに思えるような雄大な遠景や自然現象を描いてもいる。上の図は、アステリオスが居候させてもらうメジャー一家が気晴らしに出かける隕石衝突跡地である(これとよく似た場所がアリゾナ州北部に存在し、「バリンジャー・クレーター」と呼ばれる)。写真家と文学研究者という異なる顔を持つ別所隆弘さんなら、『アステリオス・ポリプ』のイラストとしての構図・色彩・光に言及しつつ、それをテクストの読解につなげるような指摘をくださることだろう。)
・西條玲奈さん
東京電機大学で哲学や倫理学を教えています。ものは性質が変化しても同じであるのはなぜか、タイプとその事例の関係はどのようなものかなど同一性に関する哲学的議論を出発点に、フェミニズムを背景にした人工物のジェンダー概念や、性的マイノリティに対する差別の構造の分析などを行っています。近年はロボットやAIなどの技術発展を背景に、人工物とのパーソナルな関係性をよりよいものとしてとらえる理論的枠組みの整理に関心があります。
(『アステリオス・ポリプ』には哲学の要素が散りばめられている。上の図からわかるように、アステリオスは、「アポロ的」と「ディオニュソス的」、「現実」と「イデア」、「テーゼ」と「アンチテーゼ」から成る「ジンテーゼ」のような、過去の哲学者たちによって生み出された概念を基礎とした世界観を持っている。そして、理論と現実が食い違うとき、現実の方が間違っていると考えるほど、彼は理論を重視している。哲学を研究してこられた西條玲奈さんには、『アステリオス・ポリプ』の哲学的要素の解説と同時に、フェミニズムの観点からの考察もお願いしたい。西條さんは、前述のゲスト講師の辻佐保子さんと同じく、2016年に『アステリオス・ポリプ』オンライン読書会を行ったメンバーのお一人だ。その際にも作品の論理的な整合性に着目し、アステリオスが変わっていく物語とはいうものの、彼の発言内容を細かく分析した場合本当に彼は変わったと言えるのかという、作品を根本から捉えなおす鋭い指摘をくださった。また、西條さんと辻さんは、この物語をアステリオスではなくハナの側から見た場合を想定し、この作品の試みの是非を問うようなご意見もくださり、それは、男性翻訳者一人でこの作品を訳しきる翻訳体制は適切ではないという考えを抱かせるに十分なものであった。西條さんや辻さんたちと読書会をした経験が、後にはせがわなおさんという共訳者を迎える下地をつくったと言える。)
このように、全6回の特別講義つきの支援プランでは、上記のバラバラの専門領域を持つ素晴らしいゲストの皆様をお迎えし、各回にそれぞれ別のテーマを立てて『アステリオス・ポリプ』をより深く味わうためにお話を伺います。クラウドファンディングの支援プランは、低額のプランから高額のプランにグレードアップすることが可能です。書籍1冊(5,500円)のプランをお申込み頂いた皆様も、後から特別小冊子つきプラン(11,000円)に変更したり、今回ご紹介している特別講義つきのプラン(38,500円)に変更できます。
この特別講義つきのプランには、まだまだ別の分野からの豪華なゲスト講師をお招きする予定です。既にご参加頂けることが決定しているゲストの方々もいますが、ここまでにかなりの字数を費やしておりますので、またの機会にご報告いたします。続報をお楽しみに!
(※コース変更はマイページにログイン後にご対応いただけます)
「書籍1冊+オンラインイベント+90分特別オンライン講義(全6回)+特別小冊子」
コース:38,500円