解放感のある本だ。美しいビジュアルが、ジェンダーアイデンティティを心の扉から解放する。山に登り、呼吸をするように。草原に腰かけて、土を確かめるように。私は誰なのか、世界と交わりのなかで確かにしていった著者の自伝的エッセイ。ただ、この本には孤独と痛みの時間も流れている。ままならない身体に、こんな風に閉じ込められているのは自分だけか。しかしその孤独な時間の流れこそが、この本を著者一人の身体から解き放つ。トランスやノンバイナリーの仲間たちが共にする時間の流れが、ここには確かに流れている。痛みと孤独の中にあるかもしれない、これからのトランスやノンバイナリーの若者たちにこの本を贈りたい。クラファンはまもなく達成されるだろう。しかし、翻訳されることが終わりではない。痛みの渦中にあるトランスやノンバイナリーの若者が、この本をひとり静かに読める時間を守るという次なる仕事が、私たちには待っている。
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