東京都立大学の長沼葉月と申します。ソーシャルワークという、日々の暮らしの中で生きづらさを抱えている人たちを支援したり、支援方法を開発したりすことを研究しています。メンタルへルス、心の健康、精神疾患等と呼ばれるものによって、生きづらくなっている人や、そのご家族をどう応援することができるのか、というのが一番の関心です。
気分の波の揺らぎが大きすぎて、空高く飛んでいく凧のようになったり、水の底に沈んでいく舟のようになったり、してしまう人がいます。私の母もそうでした。私自身の心も、そんなふうに思えるときがあります。凧のように上がっているときには、自分にうまくブレーキが掛けられなくて、こどもに対してビックリするような声を出してしまうことがあります。逆に、沈んでいくときには、子どもの声もうまく聞こえなくて、話しかけられているのに気づけなかったりして、「無視された」と思わせてしまうこともあります。そういう時は、子どものせいじゃないです。子どもが頑張って親を落ち着かせる必要もありません。それは親自身が頑張ることであって、子どもの役割ではありません。私は子どもの時に誰かにそういって欲しかったです。なので、子どもたちにはそう伝えようとしています。
そういうことを伝えるための絵本も、色々出版されています。ゆまに書房から出ているプルスアルハの絵本シリーズ、上野里絵先生が訳された2冊の絵本、田野中先生が訳された「悲しいけれど青空の日」、私も一つ「そのこと、ちゃんと話そう」という本も翻訳しました。他にも色々あります。
それぞれ特徴が色々あります。これまでの多くの本は、子どもから見た家庭の状況を描いていたり、子どもが知りたい情報を話し合ったり説明したり、具体的に教えてくれる絵本が割と多いと思います。それはとても大切なのですが、こどもの年齢や性格によっては、具体的な物語を必要以上に重く受け止めてしまって、読めない、聞けないということもあるでしょう。私の下の娘もそうでした。
この絵本は、リアルな暮らしを描いたものではありません。優しい、詩的な言葉とイラストで、あの激しい気持ちの起伏とそれを見ている小さな子どもの気持ちを伝えてくれます。リアルな話を文字で読むのはしんどい、頭が疲れてしまう、そんな時にも読めます。子どもの親を思う気持ちと抱え込んでしまう切なさも、ぐっと胸に迫るでしょう。そんな子どもも親も責めることなく、どうやって味方になることができるでしょうか?そんなヒントも本書にはでてきます。
しんどい状況を生き抜く支えは、論理的に正しい解決法だけではありません。言葉を使わなくても、心を満たしたり、ただ共に過ごしたり、誠実に向き合ったり、アートに触れたり、自分らしく表現したり。そんな時間が、生きる喜びをくれることを、思い出させてくれる絵本でもありました。
翻訳本が出版されたら、下の娘にも読んでみたいです。二人で絵本を見ながら話し合ってみたいです。
長沼葉月
東京都立大学教授。研究テーマは、児童思春期のメンタルヘルスと家族支援等。