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《特典付き!》カルト的人気の英国発ダークファンタジー小説
『ゴーストドラム』の続編『ゴーストソング』『ゴーストダンス』を
金原瑞人の翻訳で出版したい!

翻訳者・金原瑞人より:『ゴースト』3部作のクラウドファンディングが成立するようどうぞご協力ください。

『ゴーストドラム』の続編のクラウドファンディング、きっと成立すると勝手に決めて、読み直したり、所々、訳してみたりしているのですが、やっぱりおもしろい!

たとえば第2巻の『ゴーストソング』の狂言回しは、『ゴーストドラム』の敵役クズマ! こいつが本当にひどいやつで、彼に翻弄される登場人物たちが本当にかわいそう。まあ、『ゴーストドラム』でも主人公のチンギスを見事に殺しちゃったけど。
今回、クズマは自分の弟子として生まれた男の子をもらいにいって断られ、ほかの村にいってその代わりになりそうな男の子をさがす、というふうな話なんだけど、もちろん、うまくいかない。そしてクズマが人々にかける呪いの残酷なこと……このあたりから物語が動き始めます。

ところで、ニール・ゲイマンの『物語 北欧神話』(原書房)が1月に出ました。ゲイマンならではの語り口が魅力の1冊です。そしてまったくの偶然なのですが、『ゴーストソング』のなかで、クズマが村人たちに「バルドルとロキ」の話をするところがあります。いうまでもなく北欧神話のなかの有名なエピソードで、ゲイマンの『物語 北欧神話』のなかにも出てきます。元になっているのは同じ話なので、基本の部分は同じなのですが、このふたつ、まったく別の話になっています。語り口もまったく違います。
『ゴーストソング』でクズマの語る「バルドルとロキ」の最初の部分を紹介しましょう。

若者のなかで、と男は話しはじめた、バルドルほどすぐれた若者はいなかった。
ほれぼれするほど美しく、だれもが心から好きになってしまうほどやさしく心が広かった。正直で、信頼を裏切ることがなく、だれひとりバルドルを怖がる者はいなかった。
たくましく、全身に温かさがあふれていた。バルドルのいくところへは、いつも夏がついていった。バルドルが足を止めると、夏が長く続き、あたりはまぶしく、暑く、多くのものが生まれ、育った。
バルドルがひとところにいたとき、はるか昔のことだが、そこでは夏しかなかった。
冬はなく、寒さもなく、闇も死もなかった。はるか昔、だれも「死者の世界」のことを知らなかった。死者の世界の門は閉ざされたまま開くことがなかったからだ。あの門が開かなかったらよかったのにと思わない者がいるだろうか。
この美しいバルドル、若く温かいバルドルには兄弟がひとりいた。美しくもたくましくもないその兄弟の名前はロキ。ロキはこう考えていた。自分の温かさと愛はすべてバルドルに吸い取られてしまった、だからあいつはあんなに美しいんだ。それなのに、おれは寒い闇のなかにひとり取り残され、醜くなっていくばかりだ。そんなロキに、寛容になれ、やさしくしろというのは水中に火を求めるようなものだ。ロキは愛されることはなく、つねに影と寒さに包まれていた。闇と寒さを最初に感じ取るのはロキだ。冷酷な人間を「ロキの心のように冷たいやつ」といい、寒い冬を「ロキの息吹」というのはそのためだ。
だがロキは賢かった。ロキは自分の闇をのぞきこみ、そこにみえたものから学んでいった。
ロキは最初の魔法使いだった。バルドルが眠ると、ロキは暗闇のなかで覚えた道を通って、バルドルの夢のなかに入り、そこに影を投げこんだ。バルドルは傷つけられて死ぬ夢をみた。傷と死の夢をみた。はるか昔、世界には傷も死もなかった。美しいバルドルは世界で悪夢をみた最初の者だった! そして繰り返し恐怖に襲われて目を覚ますうち、眠りが怖くてたまらなくなった。疲れがたまっていくうちに、美しさも温かさも失われていき、ロキは喜んだ。


さて、この「バルドルとロキ」の話がじつにうまく『ゴーストソング』に生かされています。 スーザン・プライスの『ゴースト』三部作のクラウドファンディングが成立するよう、どうぞご協力ください。

金原瑞人

2019/02/13 11:08