プリュドムのことを知ったのは、師匠の谷口ジローが参加していたルーヴル美術館をテーマにした一連のマンガの展覧会「ルーヴルNo9 〜漫画、9番目の芸術〜」でした。
世の中にはまだまだ未知のべらぼうにうまい人がいるもんだなあと足を止めて眺め、しばらくして引き返し、二度マジマジと眺めたのでした。
昨年、とある方からフランス土産として「レベティコ」というタイトルのバンド・デシネ本をいただき、パラパラめくっていくうちにその素晴らしさに見惚れました。とくに味のある顔のおっさん達。夜の湖のシーンからは静かに音楽が聞こえてくるよう。私は50〜60年代のヨーロッパ映画に目がないのですが、フェリーニの『青春群像』やパゾリーニの『鳥』、マウロ・ボロニーニの『狂った夜』などに近いイメージが立ち上がってくるようでした。マイケル・カコヤニスやジュールズ・ダッシンの映画のギリシャの空気感。優れた漫画は描かれた絵の連続から別のイメージが立ち現れて来るものです。
これは素晴らしいものをいただいたと、その作者名を見て二度ビックリ。それは、ルーヴル展で見惚れたダヴィッド・プリュドムが描いたものだったのです。
私は10代の頃からバンド・デシネに憧れがありまして、イラストレーションのクォリティとマンガのストーリーが合わさっている日本に存在しないジャンルとして「いいなあ!」と思っていました。ただし、フランス語は読めないので、主に絵を見てはお話は想像するだけだったわけです。実験的に翻訳が試みられたこともあるのですが、まったく売れなかったのか継続されることはなく、バンド・デシネは絵をみて楽しむものと思い込んでおりました。ところがあるときから堰を切ったように翻訳本が出版されるようになり、かつてこんな話しじゃなかろうかと想像していた作品は「こんなんだったのか!」と感慨にふけることが出来るようになりました。そのキーパーソンと言っていいのが原さんで、この度、新しいレーベルを立ち上げるとのこと。未知の優れた作品を紹介いただけるのは「ありがたや!」としか言い様がありません。そしてなにより、その第一段がダヴィット・プリュドムの『レベティコ』というではありませんか。日本にないスタイルの何か。立ち現れるイメージと音楽。おっさん達。おっさん達。これは二食、いや三食くらい抜いても、その作品に浸ってみるべきだと思います。それに何より、私はどんな話なのかが知りたい!
上杉忠弘(うえすぎ・ただひろ)
イラストレーター。企業広告、雑誌、書籍表紙、映画のコンセプトアートも手がける。『コララインとボタンの魔女』のコンセプトアートで37回アニー賞映画美術賞。20代の頃、谷口ジローのアシスタントをしてました。
書名:Rady, un chat aux petits soins
著:Tadahiro Uesugi, Satorino Fuchigami
発売年月:2018年6月
発行:Nobi Nobi
※上杉さんが作画を手がけた
『ねこの看護師 ラディ』(渕上サトリーノ文、講談社、2016年)のフランス語版