おかげさまでプロジェクト達成し、期限がきましたので募集を終了しました。みなさまからのご支援心より感謝申し上げます。
『綺譚花物語』 は、サウザンブックスのECショップ、全国の書店、ネット書店で販売中。
書名: 綺譚花物語
作画:星期一回収日
原作:楊双子
翻訳:黒木夏兒
仕様:並製本/A5判/242ページ
発行年:2022年10月
ジャンル:外国文学・コミック
ISBN:978-4-909125-37-8
活動報告のページで本の制作の様子をお知らせしていますので、合わせてごらんください。
「書籍1冊コース」以上の参加者全員に、
小説版『綺譚花物語』に収録されているイラスト使用した、
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※詳細はコチラ
昭和11年。「高等女学校」「日本への進学」「職業婦人」といった「新しい未来」が少女たちの前に輝かしく提示され、それでもその未来への扉を開くか否かの選択は決して少女たちの自由意思にはゆだねられていなかった時代。
第一作「地上的天國~地上にて永遠に~」
台中女学校に通う詠恩と玉英。仲の良い先輩後輩である二人だが、卒業後に二人を待つ未来はいずれも結婚であり、詠恩の卒業後は再び会えるかどうかもわからない。そんな二人の再会は、予想外の形で叶えられることに。
第二作「昨夜閑潭夢落花~乙女の祈り~」
同じく台中女学校の同級生である日本人の茉莉と台湾人の荷舟。荷舟は卒業後も補習科に一年通い教師を目指す予定だったが、茉莉を待つ未来は東京での結婚だった。荷舟との別離を拒む茉莉は、とある禁忌に手を伸ばす。
第三作「庭院深深華麗島~小夜啼鳥~」
台中市内の林家の屋敷で「奥様」として優雅に暮らす若き妾の蘭鶯と、跡取りの「お嬢様」である女流詩人の雁聲。かつて台中女学校を受験し合格していながらも籠の鳥となる未来しか許されなかった蘭鶯は、一つの決意を胸に秘めていた。
第四作「無可名狀之物~夢の通い路~」
そして時は経ち、現代の台中。「21世紀の自由な台湾」で、昭和11年には到底考えられなかった人生を送っている二人の女性、大学院生の蜜容(ミーロン)と小説家志望の阿貓(アーマオ)。だが、彼女達は本当に「自由」なのだろうか? 昭和11年の鳥籠は、形を変えて二人を捕えてはいないのだろうか?
〈台湾漫画について〉
日本時代を通じて台湾でも定着しつつあった漫画文化も、戒厳令下に於いてはその表現に厳しい制約を受ける。このため台湾では海賊版という形で流れ込み非公式に販売された日本漫画が非常に人気を博し、エロ、グロなどの要素も含めて漫画家たちに大きな影響を与えた。現在でも日本式の漫画文法は、アメコミスタイル、バンドデシネスタイルと並んで台湾漫画に於ける主流な文法の一つになっている。特に少女漫画に於いてはキャラクターデザインなども含め日本漫画の影響が大きい。
書名: 綺譚花物語
作画:星期一回収日
原作:楊双子
発行国・地域:台湾
発行年:2020年
ジャンル:外国文学・コミック
ISBN:978-9-865114-23-7
作画:星期一回収日
台南出身、2015年デビュー。2018年出版の「粉紅緞帶(ピンクのリボン)」で、ロリータ服を愛好する(ことで若干周囲から浮いている)少女と、かわいいものは似合わないと自認している少年のようなバレーボール選手との間に徐々に芽生えていく友情を描き、同作は2019年の金漫獎で年度漫畫大獎(「今年度の漫画」大賞)と少女漫画賞をダブル受賞。
2019年出版の「九命人――溺光」では高校時代のキャンパスクイーンだった美少女を中心に、「理想の先輩」である彼女に高校時代から恋していた後輩の少年と、彼女が自分にだけ見せる「優等生」ではない素顔に惹かれつつも、その感情を封じて女同士の「友情」へと落ち着かせた同級生の少女、両者の想いとその後を描き、2020年の金漫獎で年度漫畫大獎を受賞している。
原作:楊双子
台中出身の小説家。台湾の民主化に伴い、いわゆる「台湾アイデンティティ」作品が派生してくる中、台湾歴史小説のジャンルで初期から「女性目線による日本時代」を描き、更に「日本時代に於ける女性にとって唯一構築可能だった対等な恋愛関係」としての百合を描くことで「百合歴史小説」という独自のジャンルを確立した。また大衆文学やアニメ、漫画、ゲームの研究者としても評価を得ている。
2016年の初刊行小説「撈月之人(水面の月を掬う人)」は、主人公である代々霊媒を生業とする家に生まれた女子高生が、従姉の友人である先輩の幽霊を成仏させるべく、幼少時からの友人である山神の助力を得て、その死因と現世に残る理由となった未練を探るため奔走する、というミステリー。
2017年刊行の「花開時節(花咲ける時)」及び、翌年刊行の外伝「花開少女華麗島(花咲ける少女たちの華麗島)」は「百合歴史小説」の大作であり、大正時代の富豪の幼いお嬢様「雪泥」の身体に入ってしまった現代の大学生が、一種の転生チートで「優等生」にのし上がりつつ、第二次大戦期に至るまでの昭和の女性史を「自分事」として体験し、現代とのギャップに衝撃を受けつつも名家の女性当主として成長していく姿を描いている。
上記三作及び2017年に参加したアンソロジー「華麗島軼聞:鍵」に収録の「庭院深深」は、いずれも「綺譚花物語」内の昭和11年を舞台にした三篇の原型、習作としての性格を備えており、「綺譚花物語」はこれまで書きつづられてきた「百合歴史小説」の集大成であるとも言える。
2019年夏、偶然入手したCCC創作集で、第二話「昨夜閑潭夢落花」の後編を目にした瞬間から、この作品を訳したくてたまらなくなった。
昭和十一年の台中女学校、クラス内では少数派である本島人(台湾人)の荷舟、そして内地人(日本人)の茉莉。「今なら、簡単にあの角を折り取れる」。願い事を叶える力を持つ水鹿の角を前に、熱に浮かされたように口走る茉莉の、押し殺したような興奮と、怯え。角を折り取る決定的な瞬間は描かれず、次のページでは既に角は折り取られ、それを抱えて逃げ出す茉莉が描かれている。
本島人である荷舟は水鹿の復讐を恐れて躊躇い、角を返すよう茉莉を促すが、茉莉はそれを拒む。
「遠くに行こう。誰にも私たちを見つけられない遠い場所に」。水鹿の角を抱えてそう告げる茉莉の陶然とした表情は、荷舟に対し茉莉が抱いている恋心を余すところなく読者に伝えてくる。そしてそれと同時にその「恋」が――水鹿という他者を巻き込み傷つけ、そしてそれによってしか成就せず、加えて茉莉本人の身も水鹿の呪いによってむしばまれていくその「恋」が――まるで台湾に対する私自身の気持ちをも反映しているようで、ぞくりとしたものを感じずにはいられない。
それでも呪いを受けながら「私は幸せなの」と茉莉は口にする。しかしその幸せは「荷舟の傍にいられることが約束された」ことに由来しているのだと、それが荷舟に対し明言されることはない。言わなくてもそれは荷舟に伝わっているのだと、そのように私たち読者も誤解している。あの、茉莉がうっとりと口にした言葉があるからだ。
だからこそ、茉莉が最後に突き落とされる絶望は、私たち読者自身にも、絶望的なやるせないなにかとして突きつけられる。
著者は二人とも台湾人であり、そこまで想定してこの物語を誕生させたのかはわからない。それでもこの物語は、ひょっとすると著者自身も意図しないところで、そもそも存在からして想定すらしていなかったかも知れない一日本人の読者である私に「自分事」の物語として衝撃を与え、他の日本人にもこの衝撃を味わってほしいと思うに至らせた。
日本と台湾の間にある歴史、そして今に至るまでの相互の関係を一言で言い表せる言葉は「片恋」だと私は思っている。
台湾という土地を自分達の都合のいいように、さまざまに理想化してきた、個々の日本人からの台湾へのどこか自己陶酔的な勝手な「片恋」。そして台湾から日本への「片恋」。
「綺譚花物語」を貫く恋の形もやはり「片恋」だ。
だからこそ、この「片恋」を描いた物語を、今、私は日本に届けたい。私たち日本人がしている「茉莉の恋」に気付く日本人がどこかに他にもいるのではないかと、この問いを放ってみたい。そして一人でも多くの日本人にこの衝撃を「自分事」として味わってほしい。
双方の片恋が片恋のまま潰えてしまう前に。
黒木夏兒(くろきなつこ)初の台湾旅行で一目惚れした台湾BL小説『ロスト・コントロール~虚無仮説~』の翻訳企画を持ち込み、2013年にフロンティアワークスから翻訳者デビュー。2014年からは同一作者の『示見の眼』シリーズを電子書籍で日本に公式展開している。2016年に台湾映画「太陽の子」字幕翻訳を担当。2019年、翻訳を長年希望していた台湾漫画『北城百畫帖~カフェーヒャッガドウ~第一巻』がデジタルカタパルトから刊行(第二巻も待機中)。同年、サウザンブックス社から刊行の『書店本事 台湾書店主43のストーリー』翻訳に参加。2021年、五月書房新社から刊行の『緑の牢獄 沖縄西表炭坑に眠る台湾の記憶』を翻訳。映画「緑の牢獄」の字幕翻訳及びパンフレットの編集も行う。
ブログ:http://www.suijintei.com/
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