こんにちは、サウザンコミックス編集部です。
去る11月2日(火)にサウザンコミックス第4弾『綺譚花物語』翻訳出版プロジェクトの一環で、「『綺譚花物語』から知る台湾百合漫画の世界」というZoomイベントを行いました。
出演はこのプロジェクトの発起人で台湾本翻訳家の黒木夏兒さんと、世界の漫画に幅広く関心をお持ちで、台湾も何度か訪れている明治大学国際日本学部教授の藤本由香里さん。サウザンコミックス編集主幹の原正人が進行役を務めました。
簡単に当日の様子を報告したいと思います。
進行役の原(右上)、藤本由香里さん(右中)、黒木夏兒さん(右下)
まず、サウザンコミックスについて原が簡単に説明したあとで、黒木さんに改めて『綺譚花物語』という作品についてご説明いただきました。一部翻訳をこちらから(その1、その2 )お読みいただけますので、よかったらぜひご覧ください。
続いて藤本さんと黒木さんおふたりの台湾漫画との出会いについてお話をうかがいました。
藤本さんはプライベートと仕事で何度か台湾を訪れているということ。特に2014年にマンガサミットで台湾を訪れた際には、台北の書店や出版社、図書館などを巡ってさまざまな調査を行ったとのこと。その後も2016年と2019年に台湾で調査を行っているそうで、藤本さんは当時の写真を共有しながら、台湾漫画の世界を垣間見せてくれました。
台湾のオタク街として有名な台北市内の西門町
ちなみに藤本さんの台湾漫画調査の模様は、2019年末に出版された『コミックマーケットカタログ97』に掲載された『AIDE新聞』の「世界マンガ紀行 台湾編」にまとめられています。こちらからお読みいただけますので、ご興味がある方はぜひお読みください。
一方、黒木さんは2011年の東京国際ブックフェアで『一九四五夏末』という作品を通じて、初めて台湾漫画と出会ったとのこと。翌年、台湾を訪れたときにこの本を無事入手することができた黒木さんは、その後、台湾漫画の魅力にすっかりはまり、現在にいたるそうです。
黒木さんが初めて読んだ台湾漫画『一九四五夏末』
黒木さんを夢中にさせた台湾漫画とはどのようなものなのでしょうか。続いておふたりに日本ではまだ決して広く知られているとは言えない台湾漫画の歴史や現状についてお話しいただきました。
ここではおふたりの濃密なお話のすべてをご紹介することはできませんが、藤本さんのお話では特に、1967年に始まった「漫画審査制度」が印象的でした。これは当局による検閲で、暴力描写など、子どもに悪影響を与える漫画を規制するものだったとのこと。この制度のせいで台湾の漫画出版は縮小を余儀なくされ、アクション中心だったオリジナル出版はほぼ壊滅。窮状に立たされた台湾漫画がとった策は、当時の日本の学年誌などの健全なマンガを台湾向けにカスタマイズしつつ海賊版として出版することだったそうです。
「漫画審査制度」下で出版された『週刊漫画大王』
台湾は1947年の二二八事件から1987年まで長い戒厳令下にありましたが、こうしてその間、日本のマンガが広く読まれることになりました。もちろんこうした海賊版の出版が可能だったのは、国際著作権条約等に加盟していなかった時代の話で、そもそも日本が正規版の許諾に積極的ではありませんでした。しかし1992年に台湾の著作権法が改正されてからは、主に台湾側の大きな努力により、日本の出版社から許諾された正規版が出版されるようになりました。しかも台湾は、2009年にフランスに抜かれるまで、日本のマンガの翻訳出版売上で世界一位を誇っていたそうです。詳しくはぜひ藤本さんの「世界マンガ紀行 台湾編」をお読みください。
まだ決して日本での刊行点数は多くないにせよ、1989年の民主化以降、台湾の漫画はいくつか翻訳出版もされています。とりわけ近年は台湾独自の歴史・文化・自然をテーマにした作品も増えてきていて、『綺譚花物語』もまさにそのうちの一つです。また台湾の日常を描き、そこにある社会問題を提起する作品も誕生していて、黒木さんがそれらの一例として、『大城小事』と『火人FEUERWEHR(ファイアーマン)』という作品を紹介してくれました。
『大城小事』
このふたつの作品については黒木さんの「マンバ通信」での連載記事の中でも取り上げられていますので、ご興味がある方はぜひそちらをお読みください。
台湾漫画は商業出版だけに限定されるものではありません。日本同様、台湾にも同人誌市場があり、さまざまなイベントが行われています。藤本さんも黒木さんも、実際にそれらのイベントを訪れたことがあり、その様子についても写真を交えてご説明くださいました。
藤本さんが2016年に訪れた同人誌イベント「コミックワールド台湾」のBLサークルのブース
今回のZoomイベントのタイトルは「『綺譚花物語』から知る台湾百合漫画の世界」ですから、もちろん百合漫画についてもおふたりにお話をうかがいました。まずは藤本さんに日本の百合漫画の歴史を1970年代から現在にいたるまでザザっと概説していただきました。
藤本さんによる日本の百合漫画概説
一方、黒木さんには台湾の百合漫画として、特に『綺譚花物語』の作画を担当している星期一回収日さんの『粉紅緞帶(ピンクのリボン)』とD.S.さんの『百花百色(それぞれに咲く)』を紹介していただきました。
『粉紅緞帶(ピンクのリボン)』
このふたつの作品についても黒木さんが「マンバ通信」の別の記事の中で触れていますので、ご興味がある方はぜひそちらをご覧ください。
その後、改めて黒木さんに『綺譚花物語』の注目ポイントをお話しいただき、参加者の皆さんからお寄せいただいた質問にお答えしました。おかげさまでチャット欄もにぎわい、とても楽しいイベントになったのではないかと思います。ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。
実はイベントの最初から『綺譚花物語』原作者の楊双子さんがこのイベントに参加してくださっていたのですが、最後にご挨拶してくださいました。
『綺譚花物語』原作者の楊双子さん(右下)。上段左はサウザンブックスの安部さん、上段中はサウザンブックスの古賀さん。
楊双子さんはもうひとりの作者である星期一回収日さんと一緒に、『綺譚花物語』日本語版のオンライン出版記念イベントに出演してくださることが既に決まっています。クラウドファンディングのコースにはそのイベントにご参加いただけるコースもありますので、作者おふたりの話が聞きたいという方は、ぜひそのコースへのお申し込みまたはアップグレードをご検討ください。
皆さんのご支援のおかげで、サウザンコミックス第4弾『綺譚花物語』翻訳出版プロジェクトは、11月8日(月)に無事成立しました。ご支援いただいた皆さん、改めてありがとうございました。クラウドファンディングもいよいよ11月15日(月)で終了です。最後までご支援・応援よろしくお願いします。