2023年も2月になってしまいましたが、初めての活動報告になります。発起人の三宅雅之です。フランス発のペタンク漫画『ペタンクの歴史』は6月頃の出版を目指して現在翻訳作業を進めています。
”どんな本になるのか楽しみです!”と、多くの支援者の方からの声も頂きました。
ペタンクの歴史を漫画で描くのはフランスでも初めての試みでした。シナリオを担当したクロード・アゼマ氏(現FIPJP会長、当時はFFPJP書記長)はペタンクの魅力を多くの人に知ってもらうため様々な工夫を盛り込みました。
人気歌手にしてペタンクプレイヤーであったアンリ・サルヴァドールHenri salvadorを物語の進行役に抜擢しました。
そして、物語の随所にフランスでよく知られた人物、映画俳優やテレビの司会者などを登場させ、彼らの出演作品やテレビ番組などに絡めたセリフを語らせました。
ですから、この本を開いたフランス人たちは、特に出版当時(1996年)のフランスに詳しい人ならば、思わず微笑んでしまうようなシーンがいくつも描かれているのです。
では、それから30年近くも経った現代の日本で、そういったシーンの意味を理解することは可能でしょうか?
本書を翻訳していて、一番私を悩ませているのがこの問題なのです。
翻訳という作業は異なった文化や歴史を創造的に繋ぐことですから、こんな悩みは当然かも知れません。
翻訳者の愚痴を並べ立てるより、本書のシーンの中で一番わかり易いシーンを例として御紹介します。
画を見てこの二人が誰か分かりますか?
左は俳優のリノ・ヴァンチュラLino Ventura、右は俳優で歌手のイブ・モンタンYves Montandです。
二人は往年のフランス映画を代表するスターなのですが、日本では古いフランス映画のファンでなければ知らないでしょう。
リノ・ヴァンチュラがイブ・モンタンにこう語りかけています。
” Allez n'aie pas peur du salaire!(怖がるなよ!) "
これはイブ・モンタンの主演映画「恐怖の報酬(Le Salaire de la peur)」に絡めたセリフになっています。
そして、イブ・モンタンがそれに返答して、
“C’est quand tu es silencieux!(静かにしてくれ!)”
これも、リノ・ヴァンチュラの主演映画「死にゆく者への調べ(Le silencieux)」に絡めたセリフなのです。
このシーンの意味を私に教えてくれたのは岐阜大学のジル・ゲラン准教授でした。しかしフランス人の彼でもわからないシーンが他にいくつもあるのです。
私は原作者のアゼマ氏にメールを送り、彼の書いたシナリオにこうしたシーンの意味が解説してあるのではないか? あればシナリオを送って欲しい、と依頼しました。
しかし、彼の返事は、次のとおりでした。
”シナリオはアウトラインだけで、詳しい事は何も書かなかった。漫画家のマルセル・ユデルゾ Marcel Uderzoが描いた画を見て、二人でアドリブでセリフを考えたんだ。それはとても楽しい作業だったよ!”
まさか彼もこの本が30年近くも経って日本で翻訳されるとは予想もしなかったとのことでした。
発起人・翻訳:三宅雅之