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暗く先の見えないトンネルのような
イスラエルとパレスチナの関係を描いた
イスラエル発のグラフィックノベル『トンネル』を翻訳出版したい!

ドイツ語翻訳者の大山雅也さんから応援メッセージが届きました!

 いや~、わくわくして面白かった! というのが『トンネル』を読んだ第一の感想です。地中に眠ると伝えられる「契約の箱」をめぐり、それぞれ異なる利益と欲望を持つキャラクター(と牛1頭)がずらりと登場する賑やかな物語。それらのぶつかり合いから自然と生まれる力学が物語を押し進め、ある地点でエネルギーがぎゅっと収束して勢いを増します。それは巧みな「起承転結」の「転」がはっきりと現れる瞬間です。そこに突入したら、もう最後まで一気に読まなきゃとぐいぐい引き込まれます。

 

 私はドイツ語版でこの作品を読みました。ドイツのコミック出版最大手の一角、カールセン社から2020年に出版されています。作者ルトゥ・モダン氏のコミックは過去の2作もドイツ語版が出ているほか、今回の『Tunnel』(ドイツ語版タイトル)は2022年にドイツのコミック賞「マックス&モーリッツ賞」にノミネートされるなど、国際的に注目される作家、そして日本でもぜひ注目したい作家だと思います。

 

 カールセン社サイトの本書紹介ページに打ち出されている副題的なキャッチコピーは「イスラエルの風刺作品」。説明文の中には「政治的な冒険物語」という見出しも使われています。こうしたキーワードが示すとおり、契約の箱という伝説の“お宝”を目指してトンネルを掘る探検ストーリーの中に、イスラエルという社会が風刺として巧妙に織り込まれている。そんな物語だと私は理解しました。

 

「風刺」を理解するには知識が要ります。知識がないと、なぜそこにウィットや皮肉があるのか面白みがわからない。でも『トンネル』は冒頭に述べたように、まず一本の長編読み切り作品として構成と展開が面白い(そして牛がかわいい)。まずは難しいことを考えなくとも中学生くらいから楽しく読める本だと思います。とはいえ、この作品をきっかけに興味を持って、もっとイスラエルとパレスチナを知れば、改めて読み返したときに新たな視点からクスっとしたり、ジワっときたり、むむっと唸ったりできるかもしれません。発起人バヴアのおふたりは現地の事情をよく知るとともに、それを伝えようとする熱意から、そんな風に視野を広げて深く読むためのヒントをたくさん提供してくださっているのだと思います。

 

 イスラエル、パレスチナが題材の本と聞くと少し身構えてしまう人もいるかもしれませんが、本書は社会的なテーマを交えつつも、舞台劇のようにコミカルな表情と身振りの登場人物たちが複雑に絡み合いながらガヤガヤと突き進んでいく(そして牛から目が離せない)お話です。ボリュームたっぷりフルカラー270ページの『トンネル』が果たしてどこへ辿り着くのか。プロジェクトを成立させて謎の結末をぜひ邦訳で読みましょう!

 

個性豊かなキャラがたくさん登場します(『トンネル』ヘブライ語版、P95)

 

大山雅也

ドイツ語翻訳者。ドイツ在住。訳書:『ユルゲン・クロップ ― 選手、クラブ、サポーターすべてに愛される名将の哲学』(イースト・プレス)、『GOOD VIBRATIONS 最高の体調をつくる音楽の活用法』(ヤマハ)。コミックの翻訳機会も窺っている。

 


牛からもプロジェクトの進捗からも目が離せない!残り12日!!

 

2023/06/15 14:17