こんにちは、akipakaです。先日『マラン・シャイエン』の目次を共有いたしましたが、それに続いて、巻末に掲載されている「推薦の辞」を紹介いたします!
「推薦の辞」は全部で3つあり、『マラン・シャイエン』で共通の内容になります。
今回、3つの「推薦の辞」を、先日の活動報告メッセージ でご紹介のあった吉良佳奈江さまに翻訳していただきました!
【推薦の辞1】
トランスジェンダーの当事者に会ったことがなくても、この社会でトランスジェンダーとして生きていくのはたやすくないことは簡単に想像できるだろう。
「私はトランスジェンダーです」
性自認に悩む人の人生に空気のようについてまわる大小のヘイトと差別が、細やかにそして全体的に見えてくると、カミングアウトは大きな勇気と恐怖を伴うことだとわかる。マランとシャイエンはこの本を通じて、自分たちなりの方法であなたにカミングアウトをしている。
「私たちは存在しています! あなたのそばで私たちはともに生きています!」
マランとシャイエンのエピソードは、日常で経験する様々な状況での感情と願望を率直に描いている。この本を通じて、おそらくあなたはトランスジェンダー当事者のことを理解し、その人たちとのコミュニケーションを学ぶことができるだろう。あなたの周りにいるかもしれない別の名前のマランとシャイエンが、それぞれの姿でうれしそうに語りかけてくれる経験ができますように。
性自認が隠したい‛傷’ではなく‛自慢’にできる社会になることを願って、この本をあなたにお勧めする。
パク・エディ(青少年性的マイノリティー危機支援センターティンドン活動家)
【推薦の辞2】
性別違和。自分では決して望んでいなかったけど、私と一緒に生まれて死ぬまで共にするもの。自ら公開するかバラされた瞬間に、いや、あえて明かさなくてもあらゆる不利益が発生するもの。
家族に捨てられる人、職場から解雇される人、友達を失う人、命を捨てる人もいる。
苦労して貯めた性別移行の手術費は、シスジェンダーだったら大学の授業料になったかもしれないし、ひとり暮らしの部屋の保証金になったかもしれない。しかしトランスジェンダーの私たちは、これらをあきらめて手術のためにそのお金を使うしかない。生存するために。
マランとシャイエン。誰よりも勇気あるこのふたりの作家の漫画が、まだアイデンティティに迷ってるか、アイデンティティを隠すしかない人たちの力になりますように。またトランスジェンダーにとっての希望に、そして私たちに向けた差別と蔑視があったという史料になりますように。
勇気あるふたりの作家のペンが、ヘイターの古くて錆びた刃を折ることを願って、この本をすべての人に推薦する。
ピョン·ヒス(元大韓民国陸軍下士)
【推薦の辞3】
推薦文の依頼を受けた時、色々な気持ちが交差しました。その中でも一番大きく感じられたのは申し訳ないという気持ちです。韓国でプロテスタントあるいはプロテスタント信者とは「LGBTQ+フォビア」の別名であることが多いです。キリスト教の長い信仰の中には「キリストのからだなる教会はひとつ」という命題があります。(そして私たち信徒もその一部です)そのように考えてみると、たとえ個人的にはあまり嫌悪感を持たずに生活できるとしても、教会に属した私は毎瞬間ごとに神の名のもとで行われるヘイトに賛同していることを否定できません。そんな私がこの大切な絵と文に対する推薦文を書いてもいいものか…··· 文を書いている今も心がとても重いです。
ふたりの作家の絵と文には、トランスジェンダーの人生に対する理解を広げ、トランスジェンダーのアイデンティティに対する悩みを解消する充実した情報が含まれています。 しかし、この本の本当の魅力は共感と慰めです。性別違和の経験による寂しさ、性的マイノリティーへのヘイトを前にして体験する恐怖についての優しくて親切な共感と慰労。ですから私にとっては、まるで心暖かい友人が伝えてくれる一通の手紙のようでした。貴重な作品に出会えて幸せでした。感謝します。
キリスト教はこの世界のすべてが神の作品だと伝えています。神が世の中を作るとき、特定の存在だけを愛するために作り、別の存在は嫌悪するためにお作りになったでしょうか? この本を読んだ方々の幸せを祈り、つたない推薦文のまとめに作品中の言葉を引用します。
「本当に同性愛が神様の意思ではないとしても、私たち信徒は神様から同性愛者を憎み嫌悪する権利を授けられたわけではないよ」ー『私の名前はマラン、トランスジェンダーです』 11話「キリスト教徒と偏見」より|
コ·サンギュン(牧師、韓国クィア神学アカデミー教育委員長)
翻訳:吉良佳奈江
「推薦の辞」は以上になります。
akipakaより少し解説しますと、1つ目の「推薦の辞」を書かれたパク・エディさんの肩書にあります「ティンドン」というのは、2014年12月にソウルの城北区に開設されたLGBTQユース向けのセーファースペースのことで、ホームページ によれば、「DDing Dong (띵동、ティンドン、ドアベルの”ピンポン”のこと)」は元々、レズビアンの十代の若者たちがお互いに気づいたときに使用する韓国語のスラングで「DDing(띵)」とも略されるそうです。
また、Link先の「ティンドン」のロゴは「虹でできた家」をイメージし、そのレインボーカラーの壁は「DDing(띵)」と「Dong(동)」の文字中の「ㄸ」と「ㄷ」に由来している他、屋根のピンクの三角形は、第二次世界大戦中にナチスによって亡くなったマイノリティを追悼する象徴として、描かれているそうです。
2つ目の「推薦の辞」を書かれたピョン・ヒスさんについては、「マラン」作中にも登場人物として描かれています。また、先日の福永准教授さまからの応援メッセージ や、『反トランス差別ブックレット われらはすでに共にある』(現代書館)の「わたし(たち)は忘れない」にも掲載されていた方で、この『マラン・シャイエン』が2020年12月に韓国で刊行されてから、まもなく逝去されています。
この場を借りまして、改めて哀悼の意を表します。
生前にお会いできなかったこと、「ヘイターの古くて錆びた刃」が完全に折れる日を共に見ることができなくなったことは残念ですが、彼女のことは、今後も決して忘れません。
3つ目の「推薦の辞」を書かれたコ・サンギュンさんの肩書にあります「クィア神学アカデミー」というのは、性的マイノリティへの差別が根強いとされる韓国プロテスタント界において、性的マイノリティに対する韓国教会の差別的姿勢を批判し、家父長制および性別二元論的教会の伝統に挑戦する神学を研究されているようです。
なお、韓国クィアパレードで性的マイノリティを祝福したイ・ドンファン牧師を、2024年3月4日にキリスト教大韓監理会(メソジスト会)が追放処分とした件に対し、イ牧師に対する処分取消しを求めて抗議、「反キリスト教的な決定」として非難する声明を発表されています。