皆様、こんにちは。発起人の川野夏実です。これまでご支援・ご協力をいただいた皆様に、まずは心より感謝を申し上げます。
日本では知名度のないオランダ漫画のクラウドファンディングを成立させるには、このプロジェクトの存在を一人でも多くの方に知っていただく必要があります。これからの3ヶ月間、広報活動を頑張っていきますので、皆様にも引き続き、周りの方への情報共有にお力を貸していただけますと幸いです。
今回、クラウドファンディングの発起人という晴れがましい役割を務めることになった私ですが、本来、目立つのは苦手で、世の中の隅のほうでこそこそ好きなことを温めているタイプの人間です。普段はオランダの小さな町の小さなアパートで、日本語教師を生業として、7歳の息子を育てながら静かに生活しています。
その傍ら、ひとり、空いた時間にオランダのグラフィックノベルを読んでは企画書を作り、出版社さんを探してきました。後ろ盾もコネもありません。そんな人間でも、本当に日本語で読んでもらいたい本があって地道に活動すれば、クラウドファンディングを成立させることができるというモデルケースになりたいです。
クラファンは私にとって、まさに未知の挑戦。先日、そんな大きな挑戦を絶対に成功させたいと思う出来事がありました。
クラファン開始に先立ち、著者サイン会で、『ハチクマの帰還』の作者であるエメー・デ・ヨングにはじめて会うことができました。エメー・デ・ヨングは国際的な賞を獲得し、作品はすでに30ヶ国語に翻訳されています。そんな才能と実績を兼ね備えた彼女が果たして、クラウドファンディングを通じて日本語版を制作しようとしていることをどう思っているか、順番を待っている間、おおげさでなく、心臓が飛び出るほど緊張しました。
しかし、いざ自分の番が来て、自分が日本語版の翻訳者であることを伝えると、エメーは私の両手を取って心からの感謝の気持ちを表した上に、一緒に写真を撮ろうと言ってくれたのです。(クラファンのための写真を頼む予定だったのですが、壁に写真撮影禁止と書かれていたので、写真のことは言わずに帰るつもりでした)。
最後に、「クラファンが成立しなかったら、本は出ないんだよね」と少し不安げに視線を落とす彼女に向かって、私は「大丈夫、絶対成立させます。私はあなたの大ファンだから!」と宣言し、エメーのために最後まで何があっても諦めずに頑張ろうと決意を新たに帰路についたのでした。作品が素晴らしいことはもちろん、周りの人のことを大切にする温かい人柄に、ますます惹かれました。
コミックイベントにて。発起人(左)と著者エメー・デ・ヨング
さて、感激の出会いからすぐ、エメーがSNSを更新していました。ライムを切ろうとしたら、うっかり包丁を滑らせて、指を切ってしまったというのです(映し出される包帯ぐるぐる巻きの指)。その後、過度の疲労のため、出席予定だったフランスのコミックイベントをキャンセルすること、ファンへの謝罪のメッセージが投稿されました。
プロモーションのために、時にギチギチのスケジュールで国内外のイベントを飛び回っている彼女。才能を認められた漫画家だからと言って創作に集中しているだけでは、漫画を描き続けることはできません。
小さなオランダの漫画界を盛り上げるため、常日頃、自ら表に立って漫画家の地位向上と読者獲得のために精力的に活動している様子を見ると、日本でもエメー・デ・ヨングの作品を読めるようにしてあげたい、いやなんとしてでも読まれるべきだと思ってしまうのです。
そのために私も発起人として表に出て活動しなければならないと自分を奮い立たせています。これからクラファン関係のイベントに顔を出すことがあると思いますが、どこかで私を見かけたら、引っ込み思案が頑張っているなと、どうか優しく見守ってください。
著者エメー・デ・ヨングの直筆イラストとサイン。Arigato!と添えてくれました。
さて、そろそろ作品のことにも触れておかなければなりません。私は夜、寝る前の読書が日課なのですが、『ハチクマの帰還』を読んだ時の「これは何かすごいモノを読んだのではないか」という感覚を、数年経った今でもはっきりと覚えています。その夜はなかなか寝付くことができませんでした。
本作の主人公シモンは、親友の死や自殺の目撃などショッキングな出来事に見舞われますが、人生を積み重ねていく中で、誰しもが大なり小なり、無意識のうちに蓋をしてしまった過去の記憶や、罪悪感、トラウマを抱えて生きているのではないでしょうか。
苦悩しながらも人生に真摯に向き合っていく本作は、過去と向き合い、新しいスタートを切ることで、この世界を生き延びる道を示唆してくれます。まさに大人のためのマンガと言えるでしょう。また、作者が巧妙に散りばめた数々の伏線のおかげで、何度読んでもその度に新しい発見があるエンターテイメント作品としてもお楽しみいただけます。
これからますます優れた作品を発表して世界で活躍していくであろうオランダを代表する女性作家エメー・デ・ヨング。どうか皆さん一緒に、彼女の日本デビューの立会人になってください。